「零れる」 午後野つばな イラスト:Shiva

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 アオは鶏のガラで出汁をとると、スープを作った。少ない具は、なるべくリコの皿に入れてやる。リコはそれを見ると、首をかしげた。自分の皿からじゃがいもをスプーンですくいとって、アオの皿に入れた。 「あっ、こら!」  アオが咎めると、リコはまるでイタズラが見つかった子どものように肩をすくめ、ふふっと笑った。 「だってアオのほうが働いて疲れてるもの」 「俺はいーんだよ。そんなに腹は空いてない」  嘘だった。本当は、腹の虫がぐうぐう鳴くほど、お腹がすいていた。アオは自分の皿からジャガイモをすくいとると、リコの皿に戻した。 「あー、もう・・・・・・」 「いいからしっかり食べな」  手を伸ばし、テーブル越しに弟の髪をくしゃっとかき混ぜると、リコは諦めたように素直にスープを口へ運んだ。  夕食を食べ終え、アオがキッチンで後片付けをしていると、とっくにベッドで休んだはずのリコが立っていた。 「どうした?」  洗い物の手を止め、布巾で濡れた手を拭きながら、振り向こうとしたそのとき、背後からきゅっと抱きしめられた。 「・・・・・・眠れないか?」  アオは顔だけを後ろにいるリコのほうに向けると、腰にまわされた手をぽんぽん、と軽くたたいた。そうしていると、小さかったころのリコの姿が思い出された。  ーーねえ、アオ。ぼくたち、血が繋がってないって、ほんとうの家族じゃないってほんと?  ーーねえ、アオ。お父さんたちが死んじゃったってほんと? ぼくたち、もう一緒に暮らせないんだって。どうして? どうしてこれから先もずっとアオと一緒にいられないの?  ーーぼくね、ぼく、アオがこの世でいちばん大好きだよ。ずっとずっと大好きだよ。  リコはアオの背中に顔を埋めるようにして甘えると、ふるふるっと頭を振った。 「ねえ、アオ? 俺もね、アオが一番大事だよ。だからアオにばかりつらい思いはさせたくない。俺だってアオのことが守りたい」  何かに感づいているのか、声に不安を滲ませるリコに、アオはそうと気づかれないようそっと息を吐き出した。
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