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後ろ暗いことならたくさんある。リコにだけは知られたくないと思っていることも、たくさん。血が繋がっていなくたって、そんなことは関係なかった。リコは、アオにとって唯一の宝物だから。大切な家族だから。たとえ何をしてでも自分がこの幼い弟を守ると、アオは心に誓ったーー。
「だったらリコ、頼みがある」
アオはリコの身体をそっと離すと、まだ幾分あどけなさの残る弟の顔をじっと見つめる。
「はい」
アオの真剣な表情に、リコがわずかに緊張した。
「いいからさっさとベッドで休め! ちょっと具合がよくなったからって、調子に乗ってると、また熱を出すぞ!」
「えええ~っ」
真面目に言っているのにと、ぶつぶつ文句を言いながらも、大人しく言いつけを守るリコに、アオはふっと笑みを漏らした。リコの姿が見えなくなってから、アオは表情を消した。
アオが初めての発情期を迎えたのは、ちょうどいまのリコと同じ歳だ。人によって個体差があるとはいえ、いつリコにもその時期がくるとは限らない。
オメガは三ヶ月に一度、発情期を迎える。発情抑制剤や抑制器で多少抑えることもでき、緊急用に特効薬がある。薬はすべて配給制だが、副作用があった。悪寒や発熱、頭痛、吐き気などその症状は個体差があるが、発情期の間は基本何もできなくなるため、働くことはできなくなる。
また金か・・・・・・。
アオは、暗い笑みを浮かべた。のし掛かってくる重圧に、アオはどうしようもなく押しつぶされそうになるときがあった。
ーーアオ、大好き! ぼくは、世界で一番アオのことが大好き!
ふいに、子どものころのリコの声が聞こえた。
弱音なんて吐いている余裕はない。そんな暇があったら、考えろ。どうしたらこの地獄から抜け出すことができるのか。リコを自分と同じ目に遭わさずにすむのか。
アオは唇を噛みしめた。それから残っている後片付けを済ませるため、疲れて重たい身体を無理矢理動かした。
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