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「お前の弟もオメガなんだってな。お前みたいなかわいげのないやつはゴメンだが、まだヴァージンなら俺がもらってやってもいいぞ。俺のでかいブツを思いきりぶちこんで・・・・・・」  気がつけばアオは工場長を殴りつけていた。男のでっぷりとした身体が、リノリウムの緑色の床に転がる。  男は恨めしげな目でアオを睨みつけた。 「く、首だ・・・・・・! 首だ! いますぐここから出ていけ・・・・・・っ! 二度とくるな!」  取り返しのつかないことをしてしまったという自覚はあった。アオは肩で息をすると、真っ青な顔で男を見下ろした。 「きゅ、給料をくれよ。未払いの分があるだろ」  アオの言葉を、工場長はバカにしたようにせせら笑った。 「そんなんいままでさんざん迷惑をかけられた分で帳消しだ。こっちはボランティアでオメガなんかを雇ってやってんだ。ろくに仕事もできない役立たずが!」 「そ、そんな・・・・・・っ! そんなの困るよ・・・・・・!」  悔しいけれど、男の言うことはもっともだった。すぐに発情期だと仕事を休むオメガは、雇う側からしてみたらどうしても敬遠しがちになる。アオもここの仕事をクビになったら、すぐに新しい仕事を見つけることは厳しいだろう。そんなアオの頭にあったのは、給料日になったら必ず払うからと、滞納する家賃のことだった。このままではいまのアパートを追い出され、リコとふたり路頭に迷ってしまう。  工場長は服についた汚れを払い落とすと、アオの存在など既になかったもののように、仕事に戻ろうとした。 「なあ、待ってくれ、頼むよ! このままだと住むところもなくなっちまう・・・・・・!」  思わず縋りつくように男の腕をつかんだその手を、乱暴に振り払われる。 「はっ。そんなん知ったことか」  まるで犬猫を追い払うように工場から引きずり出されて、アオは茫然となった。 「どうしよう・・・・・・」
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