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「おいどっちのほうへ逃げた!?」 「そんなに遠くへいってないはずだ」  バタバタと複数の駆ける足音が路地裏に響く。足音が近づくにつれて、アオは身体を小さくして物陰に隠れた。 「チクショウ! あいつ思い切りひとの手を噛みやがって!」 「お前があいつの口に無理矢理突っ込むからだろう。ヒヒッ、よかったじゃねえか。大事なとこ噛み切られなくて」 「うるせえよ! あいつ捕まえたら覚えてろ! 足腰が立たなくなるぐらいぶち込んだら、せいぜい高く売り飛ばしてやる」 「でもさ、それって本当に大丈夫なのか? 後で面倒なことに巻き込まれるのはごめんだぞ」  仲間の心配する声に、別の男がせせら笑った。 「ふん。どうせ船で海外まで連れていかれるんだ。金持ちのジジイにガバガバになるまで掘られて、二度と戻ってはこれねーよ」 「ひえ~、かわいそうだな~」  男たちのケラケラ笑う声が聞こえる。  「もうひとつ」の仕事に出たとき、アオは大きなミスをした。普段だったらアオはもっと慎重に客を選ぶ。そこには少なからず危険が伴うからだ。けれど、仕事をクビになったアオは焦り、万全でない身体はまともな判断力を奪っていた。  相手は三人。一刻も早く金を稼がなければと追いつめられていたアオは、複数での行為を求めてきた客に対して一瞬警戒心を働かせたものの、いつもだったら絶対に断っていただろう仕事を引き受けてしまった。  大丈夫だ、やっていることはいつもとたいして変わらない。三人いっぺんに相手をしたら、その分だけ早く稼げる。やばそうだったら隙を見て逃げればいい・・・・・・。
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