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 アオは拭えきれない不安を無理矢理振り払った。ひとりの男に馴れ馴れしく肩を抱かれ、嫌悪感をぐっと堪える。安宿の部屋に入ったその瞬間、アオは男に腹を蹴られ、気がつけば何かわからない染みがついた薄汚い床に転がっていた。 「こいつ、オメガのくせにソソる顔してやがる。せいぜい可愛がってやるから、おとなしくしてろよ。ほら、さっさとケツ出せ」  カチャカチャと、男がベルトに手をかける。  乱暴に下衣を剥かれた。  解さずにそのままぶち込まれたら大怪我をする。焦って逃げようとするアオの尻を、男は苛立たしそうにペチリと叩いた。 「お前、そっちを押さえてろよ」 「へへっ。男だと思って最初はげんなりしたが、案外イケるじゃねえか」  双丘の奥に風を感じた瞬間、アオは恐怖を感じた。  突然抵抗が激しくなったアオを、男たちは黙らせようとした。ガッと鈍い音がした。口の端を殴られ、錆のような味を感じた。声を上げて助けを求めようとしたアオの口を、男の手が押さえた。 「ーーんん・・・・・・っ! んー・・・・・・っ!」  呼吸が苦しい。目尻に生理的な涙が滲んだ。 「ははっ。泣いてるぜ。喜んでるのか? このクソオメガが!」  頬をべろりと舐められ、ナメクジが這ったような感触にぞっとした。 「俺の知り合いにオメガを集めてオークションにかけてるやつがいる。さっきここへ入る前に連絡をしておいた。すぐにくるとよ」  男の言葉に、アオは目を見開いた。一瞬にして、ザッと血の気が引いた。恐怖に冷や汗が背中を伝う。 「んーっ! んんー・・・・・・っ!」  必死で抵抗するが、自分の身体を捕らえている男の手は振り解けない。 「大人しくしろ!」  今度はこめかみのあたりを殴られて、アオはくらりと目眩がした。だめだ、いま意識を失ったら大変なことになる。
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