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「くっそ! どこいった!?」 「ふん、待てよ。焦るな」  男の声が、苛立ちを見せた仲間を宥める。 「あいつオメガだろ? だったら簡単だ。メスの臭いがぷんぷんするからな」  近くで、ジャリ、と小石を踏む足音が聞こえた。男たちはアオのすぐ側にいる。ドキドキと鼓動が早鐘を打った。 「ほーら、かわいこちゃん。うまく隠れているつもりでも、アンヨが見えてるぞ~」  身を潜めていたゴミ箱を蹴り飛ばされ、凍り付いた瞳を大きく見開いたアオの前に、下卑た笑みを浮かべた男たちの顔があった。 「見~つけた~」 「くそっ! 手間をかけさせやがって! こいっ!」  きつく腕をつかまれ、乱暴に引っ張り上げられた。  アオは、ああ・・・・・・、と絶望した。  もし自分がこのまま戻らなかったら、リコはどうなるだろうか? 理由もわからず、アオに見捨てられたと思うだろうか? この先、身体の弱い弟はひとりで生きていけるだろうか・・・・・・? すべては自分が軽率な行動をとったせいでーー。  そのときだった。薄汚れた路地には不似合いな、花の匂いがした。  花? こんなところに? まさか・・・・・・?  そこには、ひとりの男が立っていた。こんな場所には相応しくない、恐ろしいほどに整った美貌。この間のアルファだ、とアオは気づいた。冷たい、まるで碧い宝石のような瞳がアオを見ている。こんなときなのに、その瞳に吸い込まれそうになった。  アオはくん、と鼻をうごめかした。  すごくいい匂いだった。頭の芯が痺れるような、うっとりする匂い。  男はアオのしぐさに気がつくと、整った顔をひどく嫌そうにしかめた。 「な、何見てやがる」  アオの腕をつかんでいた男は、突然現れたアルファの男に一瞬気圧されたようだったが、はっと我に返ったように虚勢を張った。 「それは合意の上か?」  男の声を聞いた瞬間、アオは胸の奥が震えた。  アルファの男は、ほかの男たちは眼中にはないといったようすで、まっすぐにアオだけを見ている。男が何を考えているかわからなくて、アオはじっと見つめ返した。  碧い、宝石のようなきれいな瞳。
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