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 大男は厳つい風貌には似合わない、動物のようなやさしい目をしていた。大男は自分のジャケットを脱ぐと、剥きだしになっていたアオの下半身にかぶせてくれた。とたんに羞恥が戻り、アオはかあっと赤くなった。  再び、かすかな花の薫りがした。こんな時期、花が咲いているわけはない。匂いは、シオンと呼ばれた男のいるほうからするようだ。花の種類など詳しくないアオは、シオンがつけているコロンの匂いだろうと思った。  そのとき、アオはシオンがじっと自分を凝視しているのに気がついた。いったいなんだろう?  シオンは何かを考えるようにじっとアオを見ると、やがて勘違いだとでもいうかのように、小さく頭を振った。 「いくぞ」  シオンは大男に声をかけると、アオをその場に残し、立ち去ろうとした。 「シオン、でも・・・・・・」 「そいつが危険な目に遭ったのは自業自得だ。おおかた甘い口車に乗せられて、ほいほいついていったんじゃないのか。どうせ身体でも売っていたんだろう」  アオは、かあっと赤くなった。ぐっと唇を噛みしめる。  何も言い返すことのできないアオを見て、シオンは冷たく「図星か」と切り捨てた。 「しかし、このまま放っておくのは危険です。見たところ、具合もあまりよくなさそうだ」  シオンはちらっとアオを見た。冷たい氷のような瞳に、背筋までが凍り付きそうになる。シオンは財布から札を数枚取り出すと、アオの上に放った。 「これでいいか? いくぞ」 「シ、シオン!」  くるりと身を翻し、路地から出ていこうとするシオンの後を、大男が慌てて追う。 「待てよ!」  シオンが放った金は、アオが汗水垂らして働いて稼げる給料の半月分にも相当する。これだけあったら、遅れていた家賃が支払える。リコにだっておいしいものを食べさせてやれる。アオだってしばらく身体を売らずにすむかもしれない。喉から手が出るほど欲しい金だった。でもーー。
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