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女は冷たい目でアオを一瞥すると、無言で部屋を出ていった。それからすぐに別の使用人らしきひょろりとした男を従え、戻ってきた。ひょろりはアオを見下ろすと、明らかに嫌々だということがわかるしぐさで、アオを抱き抱え、ベッドへと戻した。
「なあ! ここはどこなんだよ!? 聞こえてるんだろ!? 無視すんなよ!」
「ーー薄汚いオメガの娼婦が」
ひょろりは、アオ以外の誰にも聞こえないくらいの小さな声で、ぼそっと呟いた。
「・・・・・・え?」
アオは、一瞬何を言われたのかわからなかった。まるで憎んでいるかのような目で見られ、思わず言葉を失う。ようやく意味を理解したとたん、アオは心臓に氷水をかけられたような気持ちになった。
「な・・・・・・っ!」
「シオンさまも何を考えておられるのか・・・・・・」
シオンて、やっぱりあのときのアルファか。
そのとき再びドアが開いて、シオンともうひとり、見覚えのある大男が部屋に入ってきた。
「気がついたか」
「あんた・・・・・・」
慌てて身体を起こそうとしたとき、胸の奥からぐっとせり上げるものがあった。あっ、と思ったときには遅かった。アオはベッドの上で嘔吐していた。室内に饐えたような臭いが広がる。
脂汗がアオの全身に滲んでいた。吐くものをすべて出し切っても、気持ちの悪さはなくならなかった。目尻に涙を滲ませ、苦しそうに嘔吐くアオを、女とひょろりは冷たい目で眺めている。
「あっ! ごめ・・・・・・」
高級そうなベッドを、自分の嘔吐物で汚してしまったアオは、真っ青になった。いくらここに連れたのが自分の意思じゃなくても、他人のベッドを汚したことには違わない。弁償しろと言われたらどうしよう。
「何をしてるんだ」
シオンに呆れたように言われ、アオはびくっとなった。そのときだった。ふわりと抱き起こされたと思ったら、アオはシオンの腕の中にいた。
「な、な・・・・・・っ!」
「シオンさま!」
慌てたのは、アオだけではなく、女とひょろりもだった。
「よ、汚れる・・・・・・っ!」
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