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 こんな嫌みな奴のシャツがどうなろうと構わないはずだが、実際に高級そうなシオンの服が自分の吐瀉物で汚れるのを目にして、アオは羞恥で顔が熱くなった。 「うるさい。暴れるな」  愛想のかけらもない言葉とその表情を裏切るように、アオを抱くシオンの手はやさしかった。 「新しいシーツとカバーを用意してやれ」  呆然とその場に突っ立っていた使用人たちは、シオンの命令に慌てて動き出す。  なんでだよ・・・・・・。  アオはぎゅっと唇を噛みしめ、うつむいた。  胸の中にどうしていいかわからないような、あたたかな気持ちでいっぱいになる。アオは、この気持ちが何なのかわからなかった。どうしてやさしくされるだけで、泣きたいような切ない気持ちになるのかも。  そのときだった。  ふわりと、花の匂いがした。くらりと目眩がするような、あの匂いだ。  全身がじわりと熱を持つ。頭がぼうっとして、自分でも何かわからない衝動がこみ上げる。 「やめろ!」  突然、ぴしゃりと撥ねつけるようにシオンに言われて、アオはびくっとなった。  やめろって何が?  いったい何を言われているかわからず、アオが顔を上げると、シオンは怜悧な美貌を強ばらせ、何かを堪えるかのように、その額にはうっすらと汗が滲んでいた。 「お前、汗が・・・・・・」  具合が悪いのかと思い、無意識のうちに伸ばしかけた手を、触るな、と振り払われた。シオンの瞳は、まるでアオが汚いものでも見るかのように冷たかった。  そんな目で見なくてもいいじゃないか。  シオンの腕の中で、アオはぐっとこみ上げる気持ちを呑み込んだ。  自分が勝手に連れてきたくせに。助けてくれなんて、誰も頼んでいないのに。
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