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まあまあ、とカイルがアオとシオンの間に割って入った。
「なあ、助けてくれた礼は言うよ。本当に助かった。でも、俺マジですぐ帰らなきゃいけないんだよ。ここってどの辺? 街から遠い?」
また何か文句らしきものを言い掛けたシオンの気配を察して、カイルはアオにほほ笑んだ。一方的に責められるのは慣れているが、そんな風にやさしい目で見つめられると、アオはとたんに困ってしまう。まるで遙か昔、アオがまだ小さな子どもだったころ、両親にイタズラが見つかって、やさしく咎められたときの何とも言えない気持ちを思い出す。
「急いで帰らなきゃいけない何か理由があるのですか?」
アオは、上掛けの上で重ねた手をもじっと擦り合わせた。
「・・・・・・弟が、具合悪くて寝てるんだ」
「弟がいるのですか?」
アオはこくん、とうなずいた。
「弟は、リコもオメガなんだけど、生まれつき身体が弱いんだ。家を出るとき、遅くなるなんて言わなかったから、きっといまごろ心配している」
アオの身に何かあったのではないかと、不安に感じている。
「家はどこだ?」
「え?」
それまでアオとカイルとのやり取りを黙って聞いていたシオンが訊ねた。
「お前の家はどのあたりだと訊いている」
頭が悪いのかいうように、不機嫌そうな口調で訊ねられて、アオは思わずむっとなる。
だからなんでそんな喧嘩腰なんだよ。
「あんたに何の関係があるんだよ」
「お前はいちいち・・・・・・っ!」
「・・・・・・シオン」
カイルが苦笑した。
「そんな訊きかたをしたら、彼が畏縮してしまいます」
シオンはフン、と鼻を鳴らすと、踵を返し、部屋から出ていった。
「まったくシオンは・・・・・・」
カイルは小さく息を吐くと、アオに向き直った。
「気は進まないでしょうが、今夜はここに泊まったほうがいいです。気づいていないかもれませんが、まだ顔色が悪いですよ」
「でも俺・・・・・・!」
どうしても帰らなきゃと言う言葉は、カイルに遮られた。
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