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アオの肌はどこか異国の血が混じっているようにわずかに浅黒く、ダークブロンドの髪はくるんと丸まって天使のようだ。その顔立ちは黙っていれば整っている部類に入り、そうしていると長い睫毛が澄んだ緑色の瞳を隠し、男の劣情をますます刺激することにも気づいてはいない。
「なあ、これからどこかいかないか?」
「は? 何言ってんだよ」
馴れ馴れしく腕を撫でられ、思わせぶりな口調で耳元に囁かれる。男の吐いた臭い息が頬に触れた瞬間、ぞわりと嫌悪感が走った。
「離せよ!」
思わずアオは男の腕を振り払っていた。男の目が据わる。
あ、やば・・・・・・っ。
アオが内心で焦ったとき、男は笑っていない目でアオを見ると、嫌らしい笑みを浮かべた。
「たかがオメガの分際で何すかしてやがる。この売女もどきが!」
男は身支度を整えると、そのまま背を向けて立ち去ろうとした。慌てたのはアオのほうだ。
「ま、待てよっ! 金! 金をまだもらってない!」
アオの弟、リコは幼いころから身体が弱い。昨夜から熱を出しているリコのために、アオはなんとしても薬と、何か栄養がつくスープを作るための材料を買って帰りたかった。そのためには金がいる。
男の腕に縋りついたアオの手を、男は汚らしいものでも触れたように、乱暴に振り払った。
「あ・・・・・・っ!」
アオはバランスを崩し、店の裏に置かれていたゴミ箱もろとも倒れた。空き瓶がガラゴロ・・・・・・と路地を転がってゆく。
「金! 金を寄越せよ! あんたのクソまずいソレを散々しゃぶってやっただろう!」
アオが声を張り上げると、男は忌々しそうに舌打ちした。財布から札を一枚抜き出すと、アオに向かって投げ捨てた。札は風に舞い上がり、何か異臭を放つゴミの上に落ちた。アオは慌ててそれを拾った。その正体を知りたくもない汚れに顔をしかめてから、小石で汚れを擦り落とす。そうしている間にも男の姿は路地から出ていった。
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