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 翌朝。アオはすぐにでも家に帰るつもりだったのを、カイルに止められた。せめて体調が戻るまでは屋敷に留まってほしいと言われ、アオは困惑した。  もう充分すぎるくらいによくしてもらっておいて、これ以上世話になるわけにはいかなかった。第一、その理由がない。  話し合いが平行線をたどるアオたちの横で、使用人たちによって次々と運ばれてくる朝食を前に、リコは目をまん丸くさせている。 「ねえ、これ食べていいの?」 「リコ!」 「もちろんです。どうぞお好きなだけ食べてください」 「やった!」  リコの言葉に、カイルはほっとしたようだった。黙ってると厳めしくも見える相好を崩す。 「アオ、食べていいって! せっかくだからいただこうよ。おいしそうだよ」  にこにこと無邪気に笑うリコに、アオは脱力した。 「さ、どうぞ冷めないうちに。足りないようなら、まだ持ってこさせますよ」  ひとまずカイルとの話し合いは休戦にして、アオはリコに手を引かれるまま、窓際のテーブルに用意された席についた。窓からは冬枯れの庭が見える。いまは花もあまり咲いておらずもの悲しく見えるが、春がきたらさぞや立派だろう。 「アオ、おいしいね。一食分浮いてラッキーだったね!」  一晩寝て、すっかり熱も下がったリコは元気だった。アオたちの家の家計からしたら遙かに豪華な朝食を前に、旺盛な食欲を見せるリコの姿を、カイルがほほ笑ましそうに眺めている。朝食は確かにおいしかったが、リコのように無邪気にこの状況を喜べないアオは居たたまれない思いになりながら、黙々とフォークを口元へと運んだ。
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