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 屋敷の中には多くの人間が暮らしていて、そのほとんどがベータだった。アルファも十数名ほどいるとの話だったが、その中でもトップに位置するのが、シオンだ。  シオンは、一族の若きリーダーで、そのカリスマ性は群を抜いているのだという。  カイルがシオンの従兄に当たると聞いたとき、アオはひどく驚いた。容姿のタイプが違うこともあったが、あの高慢さも、嫌みな性格も、カイルとは重ならなかったからだ。似てねえ、と思わず本音を漏らしたアオに、カイルは苦笑していた。  そんなカイルは、リコの側にいるのがうれしくてたまらないようすだった。何も知らないリコは、最初はそんなカイルに戸惑っていたようだったが、自分たちを差別しないでひとりの人間として扱ってくれるカイルにすぐに懐いた。カイルはアオたちが過ごしやすいよう気を配ってくれたが、体調が戻るにつれて、これ以上滞在する理由がなくなると、アオは次第に居づらくなった。  明日で一週間という日、アオは屋敷を出ることをカイルに告げた。これまで世話になった礼を述べるアオに、これ以上引き止めることは無理だと悟ったカイルは、「もし何か困ったことがあったら、遠慮せずにいつでも言ってください」とまで言ってくれた。  シオンの姿は、結局あれから一度も目にすることはなかった。カイルによると、忙しいからで決してアオたちを避けているわけではないとの話だったが、それが本当の理由でないことにアオは気づいていた。  避けられている。  アオの胸に、つきんと痛みが走った。  シオンからはひどいことも言われたが、助けてもらったのもまた事実で、せめて一言礼が言いたかったが、シオンがそれを望んでいない以上無理強いはできなかった。  他人を助けることができるのは、余裕があるからだ。  アオは心の中でうそぶくと、唇をぎゅっと噛みしめた。  そのとき、つんと服の裾を引っ張られた。振り向くとリコが心配そうな眼差しでじっとアオを見ている。 「アオ? どうしたの? どこか痛むの?」 「なんでもないよ。どこも痛まない」  ーーどうせ、もう二度と会うことはない。 「帰ろう」  手を差し出すと、リコは子どものように、アオの手をぎゅっと握り返してきた。
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