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大家の部屋のドアをノックすると、薄く開いたドアの隙間から、陰気そうな老人の顔がのぞいた。大家はアオを下から上にすくうように見ると、
「おやあんたかい。約束の金は払わないし、連絡もないから、てっきり踏み倒されたかと思ったよ」
と面白くなさそうな声で言った。
「あの、そのことはすみません、ほんとに・・・・・・。でも、いまここを追い出されると、俺たちいくところがないんだ。月末には必ず滞納した分も含めて払うから、何とかここにいさせてください。お願いします」
アオは頭を下げた。
「悪いがこっちもボランティアじゃないからね」
目の前で閉じられそうになったドアの隙間に、アオはとっさに手を差し入れた。
「だからだろ! ボランティアじゃないんだったら、なおさら俺たちを追い出したら損をする!」
「・・・・・・どういう意味だ?」
老人の目はアオの言葉に疑わしそうだったが、ひとまずは話を聞いてくれそうでほっとした。
ここが正念場だ。
冷や汗が背中を伝い落ちる。アオはぐっと腹に力を込めた。内心の緊張を悟らせまいと、アオはわざと平然とした顔で笑ってみせた。
「どうせ俺たちを追い出したって、すぐに人は入らないだろ? 俺は絶対に月末には払うと言っている。たかだかあと半月だぞ? だったら月末まで待って、俺たちの家賃を貰ったほうがいいに決まってる」
どうする? それでも無理矢理追い出すか? そして、みすみす損をする?
本当は不安でたまらなかった。ここから追い出されたら、アオたちはどこへもいくところはない。そんな生活をリコにさせるのか?
冷や汗がアオの背中を伝い落ちる。
老人は忌々しそうに舌打ちした。
「月末だぞ! それ以上は一日だって待たないからな!」
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