「零れる」 午後野つばな イラスト:Shiva

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「あっ! おいっ! 金! 金が足りないぞ! いかせたらこの倍はくれるって言ったじゃないか! おいっ!」  アオの大声に、通りを歩いていた人が何事かと視線を寄越す。けれどいくらアオが声を張り上げても、肝心の男は戻ってくるはずもなかった。 「くっそ・・・・・・」  アオはきつく唇を噛みしめると、肩を落とした。男が寄越した金額では、リコに薬とたっぷり栄養がつく食材の両方は買ってやれない。  アオはみじめだった。なぜオメガだというだけで、こんな気持ちを味わわされなければいけないのか。  この世界は、3種類の人間の性に分かれている。上から、アルファ、ベータ、オメガの順で、完全なるヒエラルキーの世界だ。社会のほとんどはアルファが仕切っているといっても過言ではなく、オメガに生まれついた瞬間から、アオの運命はすでに決まっていたのだろう。  アルファは行為中にオメガの首の後ろを噛むことによって、”つがい”になる。基本的につがいは絶対で、その絆は相手が死ぬまで続く。唯一例外があるとすれば、アルファの側からはつがいを解消することができるということだ。ただし、一方的につがいを解消されたオメガは悲惨だ。ごく稀に別の相手と関係を結ぶこともあるが、ほとんどはその精神的苦痛により、死ぬまで苦しみ続ける。  「運命のつがい」ともなると、その確率はほとんど奇跡に近い。たいていのアルファとオメガは、自分の本当の相手に巡り会うことができずに、その生涯を終える。
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