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「こいつさ、若くしてラング一族のトップなんだろ?」
「知ってるか? こいつら金持ちの資産を集めると、世界の半分と同等なんだってよ」
一人の男が、ヒュ~ッと口笛を吹いた。
「マジかよ。ちょっとでいいから、俺たちにも恵んでくんないかな」
「なんでラング一族のトップがお前に恵むんだよ」
どっと笑う声。アオは服を直しているふりをしながら、こっそりと聞き耳をたてた。
「普通はさ、一族の中でも能力が一番高いやつが後継者につくんだよ。それがさ、こいつの場合、生まれたときから周囲と比べて能力が段違いだったらしいぜ」
「ひえ~、生まれついてのアルファ様かよ。てか、お前なんでそんなこと知ってんだよ。こいつのファンかよ」
ゲラゲラと笑う仲間たちの言葉に、聞かれた男は不機嫌そうにフン、と鼻を鳴らした。
「俺じゃなくて、俺の女がこいつのファンなんだよ。もし万が一、街でばったり会う機会があったら、あんたなんかさっさと捨てて、玉の輿に乗るんだわ~なんてよ」
「お前の女だったら、玉の輿に乗るどころか相手にされずに終わるだろ」
「うるせえよ!」
仲間にからかわれた男は、面白くなさそうに、ガンッ、とロッカーを蹴った。
「でもこいつ、マジきれいな顔してんな。天は二物を与えねえってありゃ嘘だろう」
「金があるんだ。どうせ整形でもしてんじゃないのか?」
「目ん玉なんか、何色だこれ? 宝石みたいだな。ルビーってやつか?」
「ばっか、それを言うならサファイアだろ!」
「宝石のことなんか俺が知るかよ」
「一生俺たちには縁がないもんな」
「うるせえよ! 黙れ!」
思わず吹き出しそうになるのを、アオは首に巻いたショールに顔を埋めてこらえた。
「あ? こいつ何見てんだよ」
こっそり気づかれないようにしていたけれど、微かに声が漏れていたらしい。
「別に」
顔をそらし、ロッカーの扉を閉じて立ち去ろうとしたアオの進路を塞ぐように、男は腕を伸ばした。
「なーに、帰ろうとしてんだよ?」
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