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「おい、いきなりどうしたんだよ」
険悪な雰囲気に、仲間の男たちは引き攣ったような笑みを浮かべ、冗談で流そうとした。
「こいつ、さっきから俺たちの話を盗み聞きして、ニヤニヤしてやがった」
「別にニヤニヤなんかしていない」
さりげなく横を通り抜けようとしたアオの足を、突然男が蹴りつけた。とっさのことに避けられず、アオは休憩室の床に転がった。
「・・・・・・っ」
転んだときに口の中を噛んだのか、血の味がした。
「おい、何してんだよ・・・・・・っ!?」
仲間の男たちが慌てて男を止める。
「こいつ、いつも俺たちのことバカにした目で見やがって。オメガのくせに生意気なんだよ!」
アオは舌で口の中の傷を確かめた。よかった、たいした傷じゃない。
「バカになんかしてない」
本当にそんな覚えはまったくなかった。ただ、男たちがいつも寄り集まって楽しそうにしているのを見て、仲間がいたらどんな感じなのだろうと思ったことはあるが。
「嘘つくんじゃねえ!」
男はアオの言葉にますます激昂したように、拳でロッカーを殴りつけた。
「嘘なんかついてない」
「おい、もういいじゃんか。こいつだってそんなつもりはないって言ってることだし」
「そうだよ。こんなやつに構ってないで、さっさと飲みにいこうぜ」
名前も知らない同僚のひとりがアオを助け起こし、いまのうちにいっちまえ、と目で合図する。
「お前、こないだかわいい子がたくさんいる店見つけたって言ってなかったか? いいから早くいこうぜ。こんなやつに構っていないで」
仲間たちに諭され、男はチッと舌打ちした。テーブルの上にあった雑誌を手に取ると、ぐしゃりと握り潰した。睨むようにアオを見て、雑誌を投げつける。
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