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「さっさといっちまえ! くそオメガが・・・・・・っ!」  雑誌はアオの胸に当たって、バサリと床に落ちた。アオはとっさに雑誌を拾うと、ジャケットの中に押し込み、逃げるようにしてその場から走り去った。  周囲に誰もいないことを確認してから、アオはようやく足を止めた。 「痛ってえなあ・・・・・・」  血の混じった唾を、路地裏に吐き出す。  こんなことぐらいで傷つくなんておかしい。理不尽な目に遭わされるのは、とっくに慣れっこのはずだった。 「くそったれ」  ジャケットの中から雑誌を取り出し、手のひらで擦るようにして皺を伸ばす。  アオは、どうしてとっさにこれを持ってきてしまったのかわからなかった。自分には必要のないものだ。  さっき男たちが見ていたページを開く。そこには、約三ヶ月ぶりに見るシオンの姿があった。冷たい美貌はほんのわずかな狂いもなく、カメラのレンズ越しに他者を拒んでいるようだ。 「へへっ。相変わらず愛想がないでやんの。若きリーダーさまがいいのかよ、笑顔のひとつも見せないで」  なぜだか胸の奥がぎゅっと苦しくなった。これまで感じたことのない自分の感情に戸惑い、アオは再び雑誌を握りつぶそうとして、ーー止めた。 シオンの写っているページを破りとり、丁寧に皺を伸ばしてから折りたたんでポケットにしまった。その理由を、顔見知りのやつだから捨てるに忍びないだけだ、と自分に言い訳をして。  落ち葉を踏みながら、アオは自分が鼻歌を歌っていることにも気づいていなかった。最近、あまりリコに構ってやれなかったことを思い出して、せめてもの罪滅ぼしに、好物のリンゴを買って帰ろうとスーパーへ向かう。  生鮮食品売場で、青と赤、どちらのりんごもおいしそうで、少しだけ迷った。結局両方ともカゴに入れ、ついでにきょうとあしたの分の食材も買って、スーパーを出た。  ちょうど帰宅時間ということもあって、夕闇に沈む街には人が多かった。ひとり家で留守番をしているリコの元へと急いで帰ろうとしたそのときだった。  どくん。  心臓を拳で叩かれたような衝撃があった。カッと身体中の血が沸騰するようだった。 「あ・・・・・・」  手から離れ落ちた袋の口から、リンゴが地面を転がっていった。冷や汗がびっしょりと全身を覆う。アオは手で胸を押さえ、その場に膝をついた。  どくん。どくん。どくん。  ーー発情(ヒート)だ。
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