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シオンの顔を見てほっとした瞬間、アオは自分の感情に気づいてしまった。これまで自分がどれほどシオンに会いたいと願っていたことに。
こんなに嫌なやつなのに。自分とは全く住む世界が違うのに。
けれど心を覆っていた鎧が剥がれたいま、アオの心はこんなにも脆かった。アオは自分を抱き止めてくれているシオンの首に、ためらうようにその腕をまわした。
アオの頬に、ぽたりと滴のようなものが垂れた。不思議に思ったアオが顔を上げると、シオンの額にびっしょりと汗が滲んでいるのが見えた。その表情は何かの衝動を必死に堪えているかのようだ。
え・・・・・・?
「カイル、頼む・・・・・・」
すぐ耳元で苦痛の滲むシオンの声が聞こえ、カイルの腕の中へと受け渡たされる。
やだ。なんで・・・・・・っ?
アオは無意識のうちに、空いた手をシオンのほうへ伸ばしていた。
「あなたとシオンとでは親和性が高すぎるのですよ。たとえ特効薬を打ったとしても、いまの時期のあなたの匂いは、シオンには毒すぎます」
親和性・・・・・・?
きっと縋るような眼差しをしていたのだろう。空をつかんだアオの手を、なぐさめるように上からぎゅっとカイルの手に包まれた。
「本当だったらシオンに限らず、アルファの私でも相当きついんですがね、シオンに比べたらまだマシなので・・・・・・」
そんなの知らない。わかんない。
痛みで意識が朦朧としているせいで、アオは自分が子どものようになっていることにも気づかなかった。何かを言おうとしたアオの目の上を、カイルの大きな手が覆い隠すようにそっと塞ぐ。
「眠りなさい。辛いでしょう。目が覚めたら、いまよりは少しだけマシになっているはずですよ」
嫌だ、眠りたくない。
「リコのことは心配しなくて大丈夫。あなたを屋敷に連れていったら、ちゃんと迎えにいきますよ」
俺のことは大丈夫だから。こんな痛み、なんてことないはずだから。だから、ねえ、お願い、眠らせないで・・・・・・。
けれどアオの身体は限界を感じて自動的にシャットダウンするように、深い闇の底へと落ちていった。
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