15/23
前へ
/183ページ
次へ
 そのとき、うーん、とリコが身じろぎした。まだ眠そうな目をぱしぱしとまたたいて、アオに気がついた。その目が大きく見開かれる。 「アオ、起きた!」  リコはうれしそうに声を上げてから、自分の声が室内に響いてしまったことに気がつき、慌てたように口を両手で塞いだ。 「ごめん」  申し訳なさそうに小さな声で謝るリコに、アオは首を振った。ここにくるまでのことを訊ねようとして、声が掠れていることに気がつく。リコは、待ってて、と呟くと、テーブルの上にあった水差しからガラスのコップに水をそそいで、アオのところへと持ってきてくれた。 「はい、ゆっくり飲んで」  喉を伝う冷たい水が気持ちよかった。水を飲んでいる間、リコがアオの背中を支えていてくれた。 「・・・・・・またシオンに助けられたんだよな?」  確かめると、リコはこくんとうなずいた。 「スーパーの前で倒れたところをたまたま通りかかったんだって。アオ、発情期がきちゃって、自分では動くことができなかったんだって? あと少し遅かったら大変なことになっていたって・・・・・・」  リコの目にうっすらと涙が滲んでいるのを目にして、アオは舌打ちを打ちたい気分になった。  その話を誰かから聞いたとき、リコはさぞや心配し、胸を痛めただろう。  助けてもらったことには感謝するが、まったく関係のないリコにまで詳しい話をすることはないじゃないかと、アオは身勝手にも腹をたてた。 「心配かけてごめん」  アオが謝ると、リコは慌てたように頭を振った。 「ううん、ううん。全然、全然! アオに何もなくてほんとよかった!」  リコは瞼を手で擦ると、うれしそうに笑った。  アオは部屋の中に視線をめぐらせた。広い客室はしん、としていて、アオとリコ以外誰か人のいる気配は感じられなかった。ただパチパチと薪の爆ぜる音が聞こえてくる。  アオは知らずのうちにがっかりしていた。どうやら自分は目が覚めたら、その場にシオンがいるものだと思い込んでいたらしい。いったいどうしてそんなふうに考えたのだろう、そんなことあるわけはないのに。心のどこかでがっかりしている自分に気がつき、アオは嘲笑した。
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2076人が本棚に入れています
本棚に追加