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 ーーうそつき。  ふふっと、闇の中でアオを嘲笑する声が聞こえた。それは誰でもない、自分自身の声に聞こえた。  ーーお前はうそつきだね。人の気持ちを利用しちゃいけないだって? 平然と自分の身体を売っているお前が、いったいどんな顔して言えるんだろうね。リコにも言えるのか? お前は俺が身体を売ってきたおかげて、これまで満足に食べることができたんだ、生きてこられたんだって。  その声は、アオの心に毒を一滴垂らしたみたいに、じわじわと蝕んでいく。  うるさい。うるさい。うるさい。黙れ・・・・・・っ!  アオの胸の奥には、普段は決して目に入らない、その存在があることすら忘れている、禁断の箱がある。アオはその箱に頑丈な鍵をかけて、分厚い布で目隠しをしている。まるでそんな箱など最初から存在していないかのように。 「・・・・・・アオ、好き。大好き・・・・・・!」 「俺もリコが大好きだよ」  じわりと胸の中に広がりそうな昏い思いを振り払いつつ、アオはリコの後頭部に顔を埋めた。
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