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アオはぶるりと身震いした。ステンレスボトルの口を開けっぱなしにしていたせいで、中の紅茶はすっかり温くなっていた。いつの間にか身体が冷え切っていることに気がつき、部屋に戻ろうとアオが立ち上がったときだった。
すぐ近くで、カサリと落ち葉を踏む足音が聞こえた。何気なく顔を向けたアオは固まった
シオンだった。
数日ぶりに目にする彼の傍らには、ひとりの少女がいた。シオンたちはアオの存在にまだ気づいてはいないようだった。少女がかけた言葉にシオンが言葉を返し、やさしくほほ笑む。
アオは、胸がぎゅっと締めつけられた。
それは、これまで目にしたことのないくらい、柔らかな表情を浮かべているシオンの姿だった。シオンが少女を見つめるその瞳から、彼女への気持ちが伝わってくるようだ。
とっさに逃げなきゃと思ったアオの手から、ステンレスボトルが滑り落ちた。
あ、やば・・・・・・っ!
アオのたてた物音に、シオンたちが振り向いた。そこにアオがいることに気がついたシオンの表情が、さっき少女を見ていたときの柔らかなものから、アオがよく知る冷たいものへと変わる。
ずきん、とアオの胸が痛んだ。
なんだこれ、痛てぇ・・・・・・。 こっちにこないでほしい。自分のことなんて気がつかなかったことにしてほしい。そんなアオの願いは叶わず、少女を伴ったシオンはアオのいるほうへとやってくる。
「目が覚めたのか」
「あ、あの俺、迷惑をかけてごめん・・・・・・」
アオはシオンの顔が見られなかった。視線をそらしたまま、へらへらと愛想笑いを浮かべるアオに、
「本当に迷惑だな」
シオンはばっさりと切り捨てた。
アオは、ぐっと息を呑んだ。
「発情期にふらふらしていたら、どんな目に遭うかなんてわかっていたことだろう。それをお前は・・・・・・。男漁りでもしていたのか?」
「ちが・・・・・・っ」
前に危険な目に遭ってからは、一度もそんなことはしていなかった。
アオは慌てて否定をしようとして、自分を見つめるシオンの視線の冷たさに思わず怯んだ。シオンの瞳には、アオに対する軽蔑がはっきりと滲んでいた。
そうだよな、という諦めの思いがアオの胸に落ちてきた。何て言い訳をしようと、自分が生活のために身体を売っていたことは事実だ。いまさら止めたって、過去は消えない。
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