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シオンの屋敷に滞在して数日経過したころには、アオは落ち着かない気持ちになっていた。ただの客人であるという立場に、甘えていていいのだろうか。
リコは、たまっていた感情を吐き出した後は、まるで憑き物が落ちたようにすっきりとした顔をしていた。ときおりカイルとふたりでいるところを見かけることがあった。そんなとき、リコがすっかりカイルに心を許しているのがアオにはわかった。
「アオ! 見て、これ、カイルがくれたんだ!」
扉が勢いよく開く音がして、リコとカイルが部屋に入ってくる。少し前からその姿が見えないな、と思っていたリコが手にしているのは、何かの書物のようだ。
「カイルがね、昔使っていた教科書だって。時間があるときに、俺に勉強を教えてくれるって」
瞳をきらきらさせ、無邪気に笑うリコは本当にうれしそうで、アオは温かい気持ちになった。
「そうか、よかったな」
くしゃりと弟の髪をかき混ぜてやると、リコがアオの腰にしがみついてきた。
「・・・・・・リコ?」
ぎゅうぎゅうとしがみついてくるリコを不思議に思いながら、アオは少し離れた場所から自分たちのようすを見守っている背の高い男を見上げた。
「カイル。リコによくしてくれて本当に感謝している。ありがとう」
「いえ」
カイルがほほ笑む。リコはアオから身体を離すと、照れたようにえへへと笑った。それからカイルを振り向き、
「カイル、いまからでもいい? 忙しい?」
と訊ねた。
「大丈夫ですよ。それでは温室へ移動しましょうか。いまの時間は過ごしやすいはずですよ。ついでに調理場へ寄って、こないだリコがおいしいと言っていた焼き菓子をいただいてきましょうか」
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