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「やったあ! それじゃあアオ、ちょっといってくるね」 「ああ」  再びアオがひとりになると、急に部屋の中はがらんと広くなった気がした。  リコとカイルの仲がいいのは喜ばしいことだ。会ってまだ間もないふたりだけれど、互いに心を許し合っているのがわかる。よかった、と思うのはアオの本心だ。リコが幸せになれて、本当によかった。  それなのになぜだろう、ほんの少しだけ寂しさを感じる。リコの幸せはアオにとって一番の願いであったはずなのに、まるで自分の役割は終わったのだと告げられるような、取り残されたような気持ちになった。  アオは頭を振った。これもきっと部屋に閉じこもっているせいだ。  カイルがちゃんと言い含めてくれているのか、以前のときのように使用人たちから露骨な嫌がらせをされることはなかった。けれど、アオたちが招かれざる客であることには変わりない。まるで腫れ物に触るように遠巻きにされるだけで、必要がない限りはただ空気のように扱われる。それは、この屋敷の当主、シオンの意志であることに他ならない。 「よしっ」  アオは部屋を出ると、各部屋のタオルやシーツなどを交換しているメイドに声をかけた。何か自分にもできることはないかと訊ねたが、メイドは困惑した顔をするだけで、逃げるようにアオの前から立ち去ってしまった。  次にアオが顔を出したのは、調理場だ。ここではコックたちが忙しそうに立ち働いていて、声をかける隙さえなかった。どこへいっても、使用人たちは皆アオが声をかける前に、逃げるようにいなくなってしまう。  やっぱり一度シオンとちゃんと話さなきゃだめだ。
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