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 その夜は満月だった。青い闇が落ちる部屋に、月明かりが照らす。  アオが寝返りをうつと、隣のベッドではリコが健やかな寝息をたてていた。  眠れない・・・・・・。  アオは再び寝返りをうった。さっきから、もう何度もこの動作を繰り返している。  約束どおり、シオンはアオに仕事ができるよう取り計らってくれた。仕事といっても、アオにできることは限られている。それは屋敷のトイレ掃除だったり、風呂掃除だったり、いままでにアオがしていた仕事とそう違いはない。けれどアオが屋敷の手伝いをするようになって、最初はシオンの命令だからと戸惑いを見せていた屋敷の使用人たちの態度が、アオが人々の好まぬ仕事を進んで行っているうちに、段々と変わってきた。これまでは必要最低限にしか接せられなかったのに、その合間に短い会話が挟まれるようになり、打ち解けた態度を見せてくれるようになった。中にはもちろん、いまだにアオに対して敵意を見せる者もいるけれど・・・・・・。  アオがその話を聞いたのは、ほんの偶然からだった。屋敷にいるアオとリコ以外のオメガ、以前一度だけ会ったマリアと呼ばれていた少女が、シオンの”つがい”の相手であるという話をーー。  リコを起こさないよう、アオはそっとベッドから抜け出た。パジャマの上からショールを羽織ると、月明かりに導かれるように、ベランダに通じる窓の鍵に手をかけた。  アオたちのゲストルームは例の庭につながっていて、正面の玄関ホールへとまわらなくても、直接外へと出られるようになっている。 「は~。寒い・・・・・・」  外の空気は冷えていた。部屋の中の暖かい空気が逃げないよう、結露で曇る窓ガラスをしっかりと閉めた。厚手のショールをしっかり身体に巻きつける。  満月のせいか満天の星空は見えなかったが、控えめに輝く星の瞬きが美しかった。白い息を漏らしつつ、アオはしばし星空に見とれた。
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