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 シオンはラング一族の若きリーダーだ。アオはシオンのことはあまりよく知らないが、屋敷の人たちの態度から見ても、彼らがシオンに心酔しきっていることは明らかだった。そんなシオンに、相応しい女性がいるのは当然だ。  アオは、一度しか会ったことのないマリアを思い出していた。アオとは正反対な、まるで温室に咲く高級な花みたいにきれいな少女だった。周りの人が、守ってあげなきゃと思わせる。  シオンも、そんなマリアのことを大事に思っているみたいだった。彼女はアオみたいに、きっと世の中の汚れた部分なんて一度も目にしたことはないのだろう。生きるために身体を売っていた自分とはまるで違う。  ずきんと胸が痛んだ。 「最初から住む世界が違うんだよなあ・・・・・・」  そのことがどうしてこんなに胸が痛むのか。  アオは寒さに身震いした。いつまでもこんな格好でふらついていては、風邪を引いてしまう。もう部屋に戻らないと。アオが引き返そうとしたときだった。  また、あの匂いがした。花の匂いは夜の闇に紛れることなく強く香り、よりいっそうその存在感を際立たせた。  どきどきとアオの鼓動が早鐘を打つ。  すぐ後ろで、パキリ、と小枝を踏む音がした。まさかという期待の裏で、どこかでその人の存在を確信している自分がいた。 「シオン・・・・・・」  アオがその場にいることに、シオンも驚いているようだった。普段はクールなその表情に、愕然とした色が浮かんでいる。  どうしていつもこいつなんだろう。こいつだけが、自分をこんな気持ちにさせるのだろう。ひとめその姿を目にするだけで、胸が騒ぐ。触れたい、その瞳に見つめられたいと願ってしまう。会えただけでうれしくて、こんなにも泣きたいような、心細い気持ちになってしまう。誰かに弱さを見せるのは嫌なのに。どうしてこいつだけが、いつもいつもーー。
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