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珍しいプラチナブロンドの髪は、おそらくは染めてない天然のものだろう。仕立てのよいスーツは、きっとアオが寝る間を惜しんで働いても一生手にすることはできない高級品だ。
アルファだ。アオとは住む世界が違う、ほんの一握りのエリート。
正確には男はひとりではなかった。けれど、まるで世界からアオと男だけが切り離されたように、そのときのアオには男以外のものは目に入ってはこなかった。
男の瞳にはアオへの拒絶があった。まるでアオの存在すべてを否定するかのような、冷たい氷のような瞳。
ずきん、と胸が痛んだ。
どうしてそんな目で見るのだろう。俺がいった何をしたというのか。
ああ、そうか。俺がオメガだからか。
その答えがすとんと胸に落ちてきたとき、アオは顔を歪めた。
ひとから蔑むような目で見られるのは慣れているはずなのに、どうしてだろう、胸が激しく痛む。まるで、迷子になった子どものように、アオは途方に暮れた、泣きたいような気持ちになる。
ふいに男はアオから視線をそらすと、すっと目の前に止まった高級車に乗り込んだ。
地面に座り込んでいたアオに、誰かの足がぶつかる。
「ばかやろう! そんなところでぼけっとしてんな!」
罵声を浴びせられて、アオは急いで立ち上がった。潰れたリンゴは諦めるよりほかなかった。
冷たい地面に膝をついていたので、身体はすっかり冷え切っていた。
「・・・・・・帰らなきゃ」
リコがアオの帰りを待っている。それに、こんなことぐらいで傷ついていたら、世の中生きてなんかいけない。
名残を惜しむように、アオはさっき男がいた場所に、無意識のうちに視線を投げかけていた。
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