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アオはクチュン、とくしゃみをした。いつの間にか、ショールが肩からずり落ちかけている。身体はすっかりと冷え切っていた。直そうとしたショールの肩に、誰かの指が触れた。
ーーえ・・・・・・?
気がつけばすぐ目の前にシオンの顔があって、その目が合った。青い宝石のようなきれいな瞳の奥に、これまで見たこともない影がちらりと揺らめく。それが欲情だと気づいた瞬間、アオの背筋はぞくりと震えた。シオン、と呼ぼうとしたその唇を、彼のそれで塞がれる。
熱い、まるで波に呑み込まれるような激しいキスだった。
アオの肩から、ばさりとショールが落ちる。
どうしてシオンが自分にキスをしてくれているのか、アオはわからなかった。衝撃と共に泣きたいような狂喜が突如胸に沸き上がり、アオはシオンの背中に縋りつくようにその手をまわしていた。
シオン。シオン。シオン・・・・・・!
くらりと目眩がしそうなほどの濃密な花の匂いに、アオは理性や意識のすべてを手放しそうになる。
突然突き飛ばされるように身体を離され、アオは一瞬何が起こったのかわからなかった。
「・・・・・・やめろ!」
シオン?
苦痛を堪えるかのようなシオンの表情に、心配になったアオが思わず手を伸ばしかけたとき、まるで憎むような目で睨まれて、心臓がぎゅっと縮む思いがした。
「その匂いで俺を惑わすな・・・・・・っ! その手に乗るか・・・・・・っ!」
あ・・・・・・っ。
シオンの言葉でアオは気がついた。アオはこれまでこの匂いを、シオンが身にまとっている匂いだと思っていた。けれど、そうじゃなかったとしたら? シオンはおそらくアオとは逆だ。オメガが放つフェロモンか何かで、アオが意図的にシオンを惑わすための匂いをさせているのだと勘違いをしている。
「ち、違・・・・・・っ」
違う、そうじゃない。この匂いは俺がわざと出しているわけじゃない。
けれど、普段から理不尽な目に遭うことに慣れていたアオは、言い訳をするすべを持たなかった。いまだって内心ではひどく焦っているのに、その表情はほとんど変化してないに違いなかった。
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