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普段弱い者いじめをするようなやつには、一度でも弱みを見せたら終わりだ。そのことを嫌っていうくらい知っているアオにとって、弱みを見せないことは唯一の自己防衛だった。
案の定、アオのポーカーフェイスを、シオンは肯定だと受け止めたらしかった。アオを見つめるシオンの瞳が冷たく冴え渡る。
「お前が”運命のつがい”だろうと、俺は認めない」
”運命のつがい”と言ったとき、シオンはまるでそれを憎んですらいるように感じられた。シオンは冷ややかに切り捨てると、一度も振り返ることなく元きた道を戻っていった。
「・・・・・・だから違うって言ってんのに。ひとの話も聞けよな。クソ野郎・・・・・・」
胸が引き絞られるように痛かった。こんなに苦しくてたまらないのに、心のどこかでは、シオンにキスされたことを喜んでいる自分がいるのだ。
それは、アオにとって初めてのキスだった。
ーー俺は、お前のことは認めない。
立ち去り際、シオンが放つように残した言葉が、アオの胸に刺さる。
そんなこと、だめ押しされなくったってわかっている。シオンには、ちゃんと大事にしたい少女がいるのだ。
胸の奥がしん、とした。
アオは気づいてしまった。どうして自分がシオンにだけこんなに心を騒がされるのか。彼だけが他の人とは違うのか、その意味を。気づきたくなんてなかったのに。
「・・・・・・あんな男に惚れるなんて、ばかすぎるだろ、俺」
アオはため息を吐くと、落ちていたショールを拾った。それから肩を落とし、部屋へと戻った。
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