「零れる」 午後野つばな イラスト:Shiva

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 アオが家に帰ると、ベッドで寝ているはずのリコが、キッチンで湯を沸かしていた。 「アオ、お帰り。遅くまでお仕事おつかれさま。きょうは寒かったでしょう?」 「リコ、お前具合は? 寝てなくていいのか?」 「うん。さっきまでずっと寝ていたんだけど、だいぶよくなったから。お茶でも入れようかなと思って」 「お茶なら俺が入れる」  アオは、「このぐらい大丈夫なのに・・・・・・」と渋るリコをベッドへ追い立てた。  沸騰した湯をマグカップにそそいで、ティーバッグを入れた。残り少なくなった紅茶を見て、次の給料が出たら買わなければと、アオは頭の隅に書き留めた。  リコは枕を背もたれにして、ベッドで本を読んでいた。アオを見て、開いていた本の背を伏せる。リコの肌は抜けるように白く、顔立ちもアオとは似ていない。 「きょうはどうだった?」  ベッドの端に腰を下ろして訊ねたアオの言葉に、リコはマグカップを受け取りながら、ふふっと笑った。  ーーきょうはどうだった?  それは、アオたち兄弟の合い言葉だ。  アオとリコは、実は血がつながっていない。おそらくはオメガとして生まれた子どもに絶望して、親から捨てられた赤ん坊ーーそれがリコだ。アオの両親がその赤ん坊を拾ったとき、リコは御包みさえ着せられていなかった。生まれたままの姿で寒さに震え、声を上げて泣く元気さえなかった。きっと見つけたのがあとほんの少しでも遅かったなら、いまごろリコはここにいなかっただろう。
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