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翌朝、アオが目覚めると、シオンはすでに起きていた。部屋の中を明るい朝の光が染め上げる。シオンはアオに背を向けるかたちで、浅くベッドに腰かけていた。
アオが身じろぎをすると、シオンは振り向いた。目が合った瞬間、アオは気がついた。シオンは自分と寝たことを後悔している。
不思議なことに、シオンを責める気持ちはこれっぽっちもなかった。やっぱりという、かすかにそれを残念に思う気持ちはあったけれど、アオはどこかで知っていた気がする。シオンがアオを決して選ばないことを。だって、シオンにはマリアという少女がいる。自分なんかよりもずっと彼に相応しい相手が。だからシオンが自分に対して何か罪悪感めいた感情を抱いていることに気がついたとき、アオは意外に思った。
「シオン?」
アオを見つめるシオンの瞳が珍しく頼りなさげに揺れている。まるでアオにかける言葉を探しているかのようだ。
アオはシオンの頬に手を当てると、そっと口づけた。それから顔を離すと、驚いているシオンに微笑んだ。
「俺、あんたに感謝してる」
自分がちゃんと望まれてこの世に生まれてきたこと。必要とされたことを、あんたは信じさせてくれたーー。
朝の光の中で、小さな埃がきらきらと舞う。アオの心はいま晴れやかだった。まるで生まれ変わったみたいに、穏やかな気持ちに包まれている。シオンが気づかせてくれたのだ。
シオンのことが大好きだ。伝えるつもりはないけれど。
「アオ・・・・・・?」
アオはするりとシオンの横をすり抜けると、ベッドから下りた。ぐるりと室内を眺め、バスルームに置いてあったバスローブを手に取った。
「なあ、これ借りていいか?」
きのう着ていたアオの服は、雨と泥で着られたものじゃない。
「それは構わないが・・・・・・」
「サンキュ」
アオはシオンのバスローブに腕を通した。床をすりそうな長い裾も、捲り上げなければ邪魔な袖も、明らかにアオよりも大きなサイズだ。かすかに胸はときめいた。けれど、アオは表情に出さなかった。
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