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雪解け水がちょろちょろと小川を流れ、少しずつ日差しに温もりが混じると、草木が芽吹いてくる。土の合間から虫たちはむっくりと起き出し、いっせいに花開いた。
土の泥臭さと、甘い花の匂い。
風に揺れている白い小さな花は、何て名前だろう。
雲が霞む春の空を眺めながら、アオは庭を歩く。
これまで草花を眺めるような、気持ちに余裕がある生活は送っていなかったが、シオンの屋敷に滞在するようになって、アオはたびたび庭を訪れていた。自然の中にいると、自分の中にあるどろどろとした感情や不安、そして焦りがすっと溶けて消える気がした。
シオンと寝た翌朝、アオは彼が自分と関係を持ったことを後悔していることに気がついた。わざとはすっぱな態度を取ったアオに対し、シオンは怒りを隠そうともしなかった。
自分はひどく思われることなど慣れている。いまさら軽蔑されることなどなんてことない。
そう思っていたはずなのに、好きだと自覚した相手から冷たい眼差しで見られることは、思いのほか堪えた。
きっと、シオンはアオに話しかけてくることはないだろう。
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