大学にて

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大学にて

「では、九月の一週間ほど帰省させていただきます」 「はい、わかりました。わざわざ手伝ってもらってありがとう。帰省中はしっかり親孝行してください」  はい、失礼します、と言って部屋を出て行こうとしたところで教授に声をかけられた。 「あ、そうそう。大学を卒業した後の進路のこと、少しはご家族ともお話ししてくださいよ」 「はあ、まあ地元に戻って先生になるということでお互い納得はしていると思いますが」 「うん、それでもやっぱり将来のことだからね。改めて話し合ってもらった方がいいですから」  わかりました、失礼します、と言って今度こそ部屋をあとにした。大学三年生の夏休みともなると、ゼミや課題、進路のことで長期休暇中も学校を出入りすることは珍しくない。指導教官である教授と研究テーマについて話し合い、卒業後の進路のことも少々、ついでに頼まれた手伝いを終え、私は学生がたむろできるゼミ室に戻った。 「鈴香、やっと戻ってきたね、面倒ごとでも押しつけられた?」 「うん、書類の整理、手伝わされた。まあ、いつものことやからな。今さら気にしいひん。」  同級生と話すときは素の言葉がでる。進学を機に地元を離れ、こちらで暮らしはじめ二年以上が過ぎた。こちらに来て、関西弁というのは敬語で話す分には案外目立たないものだと知った。しかし、関西全域でもトップクラスに言葉がきついと言われる地域で生まれた私の場合、同級生との会話は、いわゆるべたべたの関西弁になる。 「あとは、いつ帰省するとか、卒業後の進路は家族と話しなさいとか、みんながしてるのと同じ話やったわ。九月に帰省しますって話してきた」 「もうすぐ長期休暇と年末年始の恒例、鈴香の関西弁がきつくなって戻ってくる時期というわけだ。」  篠宮鈴香って名前を初めて見たときは、なんか綺麗な名前って思ったのよ。でも、話してみるとすごい大阪の人って感じでしょ、そのギャップにびっくりしたよ。目の前にいる友人はいつだったかそんなことを言っていた。  そう話す友人、美緒によれば、私が帰省から戻った後はいつも訛りが強烈になっているらしい。当の本人である私にはいまいちわからないのだけれど。そういえば、他の地方から来ている友人もそんな傾向があるかもしれない。
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