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私の故郷
岸和田駅の改札口を抜けると、夜を迎えた町にお囃子の音が響いていた。祭りを一週間後に控えた町は独特の熱気を持っている。飾られた提灯、駅周辺に貼られた広告やパンフレット、帰り道を急ぐ人たちの様子…、そのすべてが一週間後の祭日がどれほどこの町に住む人々にとって大きな意味を持つかを物語っている。
岸和田といえば、「だんじり祭」である。要は「だんじり」と呼ばれる大きな山車を大人数で引っ張り、町中を走り回る祭りだ。数年前にドラマの舞台にもなった歴史ある町なのだが、だんじり以外に何があるかというと、よその地域の人たちはもちろん、地元民ですらいまいちわかっていない。しかし、そのドラマだって、人々がだんじりをひいて走り回ってるシーンが印象的なのだから仕方あるまい。
大学生になってからは毎年、敬老の日に合わせて帰省している。主な理由はふたつある。ひとつは大学の夏期休暇八月から九月の二ヶ月間であること。もうひとつは敬老の日に合わせてだんじり祭が開催されること。正確にいえば、だんじり祭に合わせて親戚が集まるからである。学生という身分、なんだかんだお世話になっている立場としては顔を出しておく方が無難なのだ。
「まあ、あんまり関係ないけど…」
なんとはなしにつぶやき、家路を急ぐ。一八年間、私が生まれ育った愛着ある町。だけど、一年に一度の祭りのためだけに生きているような様子に、違和感を拭い去れない町
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