いち

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わたしは兎である。 名前はヴァイス。どっかの国の言葉で白って意味らしいぞ。 ご主人がよく「ヴァイスの白いふわっふわの毛並み、サイコー」と言ってはわたしの背中に顔を埋めているので、わたしの毛皮は顔から背中に至るまで白いのだろう。 名は体を表すのだ。流石はご主人である。名付けのセンスがキラリと光っているのだ。 などと呑気に考え事をしているわたしだが、実は今、命の危機に瀕している。 「ヴァイス…!ヴァイス、死なないでくれ!俺を置いて逝かないでくれよ…!」 ご主人が今まで見たことのないような必死の形相で、腕の中のわたしを見る。 …ああ、大人しく人参食べてればよかった。 チョコレートだったか?あの茶色い板が手の届くところにあって、普段ご主人が美味そうに食べているからってわたしも食べれるとは限らないのに。 たらふく食ってしまったのだ…。 「お、彩雅」 遠ざかりつつある意識の中で、わたしの耳は聞いた事のある声を捉えた。 ご主人の名を呼ぶそやつは、確かご主人の自称親友である。 「黒矢?何そんな急いでんの?」 「鉄面皮の黒矢なんて呼ばれてるくせしてそんな顔出来たのね」 続いて聴こえてきたのも何度か聞き覚えがあるぞ。 確か人参をくれた、親切な雌達だ。 「そこをどけ」 ご主人が地を這うような声で言い放った。 「元々そんな状態のお前を呼び止めようとなんてしてねーよ。何があったか知らねーけど」 「賢明な判断だな」 ご主人が素っ気なくそう言って、一歩踏み出したその瞬間ーーー瞼を閉じている筈のわたしの目すら焼くほどの光が満ちた。
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