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鼻血のせいで化粧は跡形もなくはげ落ちたので、あてがわれた部屋に戻ったら侍女に絶叫されたのち、水を浴びても落ちないとかいうより強い化粧を念入りにされた。
水で落とせないならどうやって落とすのだろうな?
身繕いしている間に極者たちは勇者との顔合わせを済ませてしまっている。
わたしはただの補佐なので、いなくても問題ないということらしい。
勇者にはそんなに興味ないのでべつに構わんが。
「さ!できました!」
「夜会に妖精が現れたと噂されますわ、きっと!」
夜会とやらには出ないといけないらしいのだが、夜会にはうまいものがたくさん出るらしいので、楽しみだ。
人間の体になってからは人参以外のものもうまく感じられるようになってきたゆえな。
「だまされたのだ…」
「おチビ、次だ」
キラキラ、いやギラギラとまぶしく飾り立てられた広場に、色とりどりのドレスが動き回る。
たしかにおいしそうなものがたくさんあるが、ツェーザルから離れると雄がよく分からんことを言いながら寄ってくるし、ツェーザルと一緒にいると中年の雄と若い雌の組み合わせがひっきりなしに話しかけてくるので食べるヒマがない。
おまけに若い雌はツェーザル狙いらしくわたしを見つけると睨んでくるのでうっとうしいのだ。
みかねたツェーザルが話しかけられる合間にわたしにささやく。
「おチビ、俺から離れたらすぐに食いたいものを食いたいだけ皿に乗せて庭にでも出てろ」
「分かったのだ」
有言実行、わたしは話しかけられないように早足で肉と人参とデザートを皿に大盛りによそい、急いで外に出た。
会場と庭は繋がっているのだが、ちょうど中から見えにくそうなベンチを見つけて、いそいそと座って、肉にかぶりつく。
「あれ、先客がいたのか」
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