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「む?」
肉にかじりついたまま顔を上げると、若い雄が立っていた。
ご主人に似た配色で、茶髪に黒目だからか、なんとなく懐かしく見える。
こやつはなんだかうざくなさそうな感じがする。
わたしは肉を丸のみして、ベンチの真ん中に置いていたお尻をはじっこにずらした。
「座りたきゃ座れ、なのだ」
「じゃ、じゃあ失礼します…」
若い雄は居心地悪そうにモゾモゾと何度も座り直している。
「あなたも逃げてきたクチなのだ?」
「え?まあ、な。きみも?」
「あそこにいると食うヒマもないゆえな。ひっきりなしに知らぬやつが話しかけてくるのはうんざりだ」
「はは…それには同意だ」
む、この肉は口の中でほどけるぞ!噛まずともちぎれる…!こんな肉があるのか!
「…きみ、幸せそうに食べるなぁ」
「うまいものを食ったら幸せになるのは当たり前なのだ。それよりきみじゃなくてヴァイスはヴァイスだぞ」
「ヴァイス?きみの名前?」
「うむ」
「ヴァイス、か…。(彩雅の兎もそんな名前だったっけな…って兎と同列にしたらこの子に失礼か)
あ、おれは緑原琉斗。一応勇者らしい」
その最後の言葉に、わたしは思わず食べるのをやめてリュウトの顔をまじまじとみる。
「勇者だったのか」
「きみ、いや…ヴァイスは?おれが勇者って知らないってことはこの国の貴族じゃないよな。でも挨拶したほかの国のお偉方とも違うみたいだし…」
「ヴァイスは極者補佐だぞ」
「マジか!ヴァイスって強いんだな!」
リュウトがキラキラした目でわたしを見る。
…ん?
「リュウト、ヴァイスと会ったことないか?」
「え?いや、ないと思うけど…」
「そうか。気のせいか…?」
わたしは頭が悪い。
リュウトがないと言うのだからこの既視感は気のせいなのだろうな。
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