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「それで、おチビ。お前の種族は?」
「おチビじゃないのだ!ヴァイスという立派な名前があるのだぞ!」
初めて見る竜の巣の外は、巨大な岩がゴロゴロしていて殺風景である。
わたしにとってはケージの中が全てだったので、見るもの見るもの新鮮でキョロキョロしてしまう。
こんな広い場所なので是非とも飛び跳ねたいが、紫人間もどきがしっかりわたしを抱きかかえているので不可能だ。
「名前持ちなのか…。で、おチビ。お前の種族は?」
「おチビじゃないと言ってるのだ!」
「はいはい。それでいいかげん、種族教えてくれよ」
「ヴァイスは兎である!」
「俺の知ってる兎と違う…」
「知ったこっちゃないのであるぞ!」
「可愛いナリのわりに言うな、お前…」
わたしを抱いて歩くご主人とは比べ物にならない速さで移動するわりには、揺れがほとんどない紫人間もどき。
うむ、優秀な乗り物だ。
「紫人間もどきの名前はなんなのだ?」
「…紫人間もどきって俺のこと…?
竜ってやつは名前がないんだ。だから本当の名はないが、便宜上ツェーザルと名乗ってる」
「ち、ちぇーざる?」
「ツェーザル」
「つ、えーざる」
「おしい。ツェーザルだ」
「ち、つぇ、ツェーザル。…ツェーザル!」
言えた!言えたぞ!
耳がピコピコ動く。フンスフンスとうるさい鼻息はわたしのものだ。
「…なんだこの可愛い生き物…」
ツェーザルは片手でわたしを抱え直し、もう片手を顔に当ててうめいた。
うむ!可愛いとはよく言われるぞ!
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