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「ありがとうございます。迎えは大丈夫です」
要件だけを返信してスマートフォンの光を落とし、瞼を閉じる。
「これからは、自分の母親と思っていいから」
照れるように笑んだ彼の口許が、その言葉に重なるように私の目の奥に投影される。
そうね。
ありがとう。
貴方のその顔、大好きよ。
それと安心して。お義母さんのことも、勿論好きよ。
問い質された訳でもないのに、心の奥の暗く狭い部屋で言い訳を繰り返す。
そう、これは言い訳なのだ。
並べる言葉とはちぐはぐに、本当は。
私の足はこの場所に来ることを拒んでいるのだから。
「俺にも、母さんにも、遠慮することなんてないからな」
ごめんね、尚登。
「遠慮」している訳ではないの。
その理由を貴方に伝えられる日はきっと来ない。
やさしい、良い人の笑顔を、言葉を。
善良な心を。
私の言葉で食い荒らす訳にはいかないのだから。
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