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後部座席に横たわる辰巳の真っ赤な腰とフレデリックの手に握られた赤い携帯を、匡成が呆れたように見やる。
「俺が抉ってやるまでもなかったな。一意」
そう言って、匡成が鼻で笑い飛ばしたことは言うまでもない。
◇ ◆ ◇
穏やかな日差しが降り注ぐ軒下で、辰巳はフレデリックの長い脚に頭を乗せて寝ころんでいた。
晴れて家族公認(?)の仲となってから早一か月。散歩帰りの匡成に拾われて家に帰った辰巳は、麻酔も効かないうちから開いた傷を縫われた。注射でさえも荒々しい美月に説教されながらの縫合は、もう二度と経験したくない。それもこれも、自業自得だったが。おかげで、未だに辰巳は家から出る事を許されてはいない。
匡成によって足止めされていたフレデリックの船が再び日本に寄港するのは三か月後だというから、まだ二か月は休暇があるという事だ。本来であれば寄港地まで飛んで乗務に復帰する事も出来たはずだったが、フレデリックはそうしようとはしなかった。
匡成の許しもあって、フレデリックはあれ以降ずっと辰巳の家に滞在している。もはや同棲状態だ。
フレデリックの素性に関しての一件は、”確認”だと言った匡成の言葉通り、これといってその後問題にはなっていない。どちらにせよ知れたところで海外の本職を相手に日本のヤクザが楯突くなど不可能だった。
何かが起きてからでは遅いなどと騒ぐ馬鹿もいたようだが、匡成が約束通り火を消した。それで終わりだった。
本当に、この家業は面倒臭い。
「あークソ。暇で仕方がねぇ」
「そう? 僕はこうして辰巳と過ごせるのは結構楽しいけどな」
「あぁん? 日がな一日縁側で昼寝なんぞどこの年寄りだよ」
「年寄りというか、辰巳の場合は猫?」
頭を撫で梳くフレデリックの手に、本当に毛繕いでもされているような気分になって辰巳は起き上がった。眉間に深い皴が刻まれる。
「どうしたのかなー……子猫ちゃん?」
わざとらしいフレデリックの猫なで声に、辰巳は心底嫌そうな顔をした。
不意に、匡成にお前はネコなのかと問われたことを思い出して、増々眉間の皴を深くする。辰巳の場合、猫と言うよりはむしろ虎か何かだと思うが、匡成もフレデリックもからかいを含んでいるために辰巳の機嫌は逆撫でされた。
口から吐き出される声が、地を這うように低い。
「あぁん? もう一遍言ってみろ」
「子猫ちゃん?」
フレデリックの口角が煽るように持ち上がり、辰巳を挑発する。
「どっちがネコだよ。この場で組み敷かれてぇのか?」
「気が合うね、辰巳。そろそろ僕も、キミを抱きたいと思ってたところだよ」
「はぁん? やれるもんならやってみろよ」
先ほどまでの穏やかな空気はどこへやら。睨み合う事数秒の後、辰巳は立ち上がるとフレデリックの腕を掴んで自室へと連れ込んだ。包帯こそ取れていないが腰の傷は、もう殆ど塞がっている。
「脱げよフレッド」
バサリと、辰巳のシャツが畳に落ちる。引き締まった腰に巻かれた包帯をうっとりと眺めて、フレデリックは着ている服を脱いでいった。
立ったままの辰巳の足元にフレデリックは自ら膝をつくと、視線を逸らすことなくその口を開いて辰巳の屹立を飲み込んだ。
「何が抱きてぇだ。それが、男のもん咥えて言う科白かよ」
「んふっ、分かってないなぁ……」
既に腹につく程反り返る辰巳の剛直を根元から舐め上げて、フレデリックが妖艶に嗤う。見下ろす辰巳に見せつけるように歯を剥き出しにすると、そのまま軽く歯を立てた。
「痛ぅッ、お前なっ」
「ここ、急所だって分かってる?」
フレデリックの腕が、逃がさないとでもいうように辰巳の腰を引き寄せる。喉の奥まで飲み込まれ、先端を締め上げられて、辰巳は息を詰めた。
今までとは違う。と、ようやく辰巳が気付いたところで既に遅かった。フレデリックの口腔で締め上げ、追い立てられて声が漏れる。
「ッ……く、…は……ッ、待…ッ」
「駄目だよ、辰巳。今日は……待たない…」
自らの意思とは関係なく急速に追い上げられた快感は過ぎたもので、あっという間に吐精感が込み上げる。吐き出す直前でフレデリックの指に屹立の根元を戒められて、辰巳は思わずその肩に手を突いた。情けない事に、立っているのでさえ精一杯だった。
ともすれば嬌声をあげてしまいそうなところを、食いしばるように言葉を絞り出す。
「ぅッ……ア、……指…ッ、放せ、てめ…ッ」
膝を震わせる辰巳の屹立を含んだまま、フレデリックがクスクスと笑う。肩に食い込む指に力が入れば入るほど、フレデリックもまた、辰巳を追い上げた。
根元を強く握り込んだまま吐精を煽るように吸い上げれば、さすがに辰巳の口からも嬌声が漏れる。苦しそうで気持ち良さそうな声に、フレデリックは満足そうに微笑んだ。
奉仕される事にしか慣れていないだろう辰巳の躰が愛おしい。
吸い上げる度に目の前で辰巳の美しい腹筋が艶めかしく隆起するのを、フレデリックはうっとりと眺めた。
「ふッ、く…ッ、フレ……ッド…」
「うんー?」
「駄目…だッ、マジで……ッ、待っ」
切羽詰まった声に、さすがに限界だと悟ったフレデリックが口を離した瞬間、辰巳の躰は膝からくずおれた。抱き止めたフレデリックの腕の中で、辰巳が浅い呼吸を繰り返す。
「っ…ふッ、はッ……はあ…っ、ぁ」
「大丈夫かい? 少し、苛め過…ぅんっ、ぅ…」
辰巳の唇がフレデリックの言葉尻を攫う。やがて離れた唇から、低い声が吐き出された。
「お前が抱きてえって言うなら抱かれてやる。その代わり、一回出させろよ……」
辰巳の不器用なお願いに、フレデリックは微笑んだ。
「まったく、キミって男は本当に可愛いね」
「うるせぇよ馬鹿」
フレデリックは辰巳の躰を抱き上げて、大きな一枚板のテーブルの上に座らせる。膝を割り開いて中心を口に含めば、辰巳の口から快楽に塗れた声が落ちた。
「はッ、あ…、それ……気持ち…いい…ッ」
金糸の髪に辰巳の武骨な指が潜り込んで、愛おしそうに掻き抱く。
辰巳の腹筋がぐっと締まったかと思うと、フレデリックの口腔に熱が注ぎ込まれた。残滓までをも飲み干して、ようやく口を離す。
「はー……っクソ、本当にお前は質が悪ぃな」
「そうかな?」
「お前、どんだけ今まで手ぇ抜いてやがった?」
「手抜きはしてないよ。我慢してただけで」
「言っとくが、俺はお前みてぇに自分で解したりは出来ねぇからな」
ガシガシと頭を掻きながら言う辰巳を見上げてフレデリックは微笑んだ。本当に、辰巳はフレデリックに抱かせてくれる気でいるらしい。
「希望があれば聞いておくよ? 辰巳」
「何の希望だよ」
「優しく抱かれたいか、無理矢理犯されたいか。どちらをお望みかな、子猫ちゃん?」
「ッ、子猫ちゃんはヤメろ。他は好きにしていい」
好きにしていいと顔を赤くする辰巳に、フレデリックはクスクスと声をあげて笑った。
それから、どれ程の時間が経過したのかすら分からない。テーブルの上に四つん這いにさせられた時の羞恥心など些末に感じる程、フレデリックの手によって辰巳の躰はぐずぐずに溶かされていた。
――あー……やべぇな。気持ち良い。
広い和室に、ただひたすらに辰巳の吐息と水音が響く。
「ッ…ぁ、……ぁく、ぅっ」
辰巳は額をテーブルへと擦りつけた。一枚板のひんやりとした冷たさが、熱に浮かされたように熱い額に心地良い。後孔に何本の指が入っているのかすら、把握できていなかった。最初に感じた圧迫感も、今は薄れつつある。
フレデリックは、最初から指を入れるような真似はしなかった。これ以上ないというほど舌で丁寧に蕾を解され、辰巳の躰に負担の一つも掛けずに指を飲み込ませたのだ。ただし、辰巳の羞恥心を煽る事だけは忘れなかったけれど。
「っは…、ぁ……ッ」
下を向いていてもなお、腹に付きそうなほど反り返った辰巳の屹立からはダラダラと雫が垂れて太腿とテーブルを汚している。指を食んだ縁を舌で舐め上げられれば、欲しがるようにナカの襞が収縮した。
「ッ、……それ、気持ち、いッ」
「カズオキのここ、いやらしいね」
ふぅと息を吹きかけるだけで、辰巳の腰がぴくりと震えた。
指を食ませたまま、覆いかぶさるような態勢でフレデリックは自身の屹立を辰巳の内腿に滑らせた。雄同士が擦れ合って卑猥な水音をたてる。ただそれだけで辰巳の雄芯からは透明な糸が滴り落ちた。限界などとうに超えた躰が、些細な刺激にも反応して涎を垂らす。
「アッ、ぃや……だっ、ソコッ、もっ……ぅ、無理ッ」
「そろそろ、欲しくなってくれた?」
ナカに飲み込まされたフレデリックの指が蠢いて、辰巳の気持ち良いところを僅かに擦り上げた。爪先から全身に痺れるように広がる快感は、これまでに辰巳が経験したことのないものだ。
一瞬掠めるだけの快感では到底足りなくて、辰巳の腰が揺れる。
「っ足り…ねぇよ……、指じゃ」
震える腕でぐっと上体を持ち上げる辰巳に、フレデリックは指を引き抜いた。躰を起こした辰巳の腕が伸びて、フレデリックの首に回される。耳元に寄せた口から低く掠れた声で辰巳が囁いた。
「寄越せ。お前を全部」
「カズオキが望むなら、いくらでもあげるよ」
ほんの一瞬の浮遊感。抱き上げられた辰巳は、フレデリックの雄芯を自重で飲み込まされた。圧迫感に息が止まる。
「――……ッッ!! ぐッ、は…ッ」
頭の天辺まで貫かれるような衝撃に、辰巳の躰が強張る。天井を見上げたまま動かない辰巳の背を、フレデリックは心配そうに撫でた。
「苦しいかい?」
「ハッ、ドコ見てモノ言って……っんだよ」
唇を歪めた辰巳の視線が、胸を滑るように落とされる。それを追ったフレデリックの視界には、二人の腹を濡らした白濁があった。
思わず、笑いが込み上げる。
「ふふっ。本当に、僕を夢中にさせるのが上手いね」
「動けよフレッド。もっと気持ちよくさせろ」
「カズオキが望むなら……っ」
フレデリックの腹筋がぐっと引き締まり、辰巳の躰を抱えたまま横倒す。濡れた結合部がたてる卑猥な水音に、欲を煽られたフレデリックは本格的に捕食に取り掛かった。
正確なリズムを刻んでいた抽送が、いつしか急くようなそれへと変わっていた。揺さぶられるたびに零れ落ちる辰巳の声が艶を纏い、ますます情欲を募らせる。
「素晴らしい」
多少の無理をしたところで潰れる気配もない辰巳に、フレデリックは感動すら覚えた。
◇ ◆ ◇
翌朝。スパンッと勢いよく辰巳の部屋の襖を開け放ったのは、辰巳匡成その人だった。
奥座敷の布団の上に素っ裸で転がる二人の息子を仁王立ちで見下ろす。その目には、当然ながら呆れたような色が浮かんでいた。
下半身すら隠そうともせず仰向けに眠る辰巳の胸には、フレデリックの頭が乗っていた。金糸の髪がさらりと辰巳の胸を滑り、頭が持ち上げられる。
「んっ……マサナリ……?」
眠そうに目を擦りながらフレデリックが起きても、朝が弱い辰巳はまだ眠ったままだ。
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