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「アキちゃんはこういうお店に来るの初めてなんでしょう? どう? スクリュー・ドライバーの味は? ジュースみたいで飲みやすいと思うんだけど。もっと飲んじゃう?」
先週の男ほどではないが、今日の男も分かりやすく晶の罠に嵌っている。
晶の気を引こう、晶を酔わせようと躍起になっている隙に自分のグラスに薬を入れられて、目的を果たす前に眠り込んでしまうのだ。
(でも……良かった……)
陽翔は少しほっとしていた。
今日の男は先週の男ほど金を持ち合わせていなさそうだが、その代わりあからさまに店から連れ出そうなどという強引さも持ち合わせていなさそうだった。
この程度なら、万が一、薬が失敗しても然したる危険はなさそうだ。
(一万二万の実入りじゃあ、晶は不満を零すだろうけど……)
晶のふくれっ面を想像して、酔ってもいないのに可笑しくなってきた。
失敗してほしくもないが、大成功もしてほしくない。
こんなことで大金なんて、稼げない方がいいのだ。
カランカラン、とドアベルが鳴って、マスターが「いらっしゃいませ」と声をかけた。
何気なく陽翔も入口の方を見る。
入ってきた客は、一目で分かるぐらい仕立ての良いスーツを着た若い男だった。
スーツだけでなく時計も靴も明らかに高級品で、しかもそれを嫌味なく着こなしている。
(あ、ヤバいな……)
見るからに晶の好みそうな獲物だ。
あくまで『獲物』としてだが。
そして若いのに金を持て余しているような男は曲者だ、と経験上知っている。
女の扱いに慣れている上、目的を達成するための強引さも兼ね備えている。
先週の男のように薬が効く前に晶を店から連れ出そうとするかもしれない。
(いや、でも晶はもうあっちの男と喋ってるし……)
大人しくあっちの獲物で晶が我慢してくれたら、と祈るような気持ちで見守っていたが、男は躊躇いなく晶の隣に座った。
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