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グラスの破片が晶の足元に散らばり、それを落としたと思われる晶は、目を見開いて顔を強張らせている。
だが晶の視線は足元ではなく、男の手元に釘付けになっていた。
咄嗟に状況が掴めない陽翔の耳に、眼鏡の男の声が響いた。
「あれ? この写真の男に見覚えがある? 俺の部下なんだけど。ああ、そういえば先週『お人形みたいに可愛い子と一緒に飲んだ』ってガミの奴自慢げに言ってたなぁ。ねぇ? 『アキちゃん』」
(先週の男の知り合い……? マズい!)
晶だけでも逃がそう、と陽翔は席を立とうとした。
だがそれより一瞬早く晶がカウンター席の高いスツールから飛び降りる。
身のこなしが俊敏な晶なら、一人で逃げおおせられるかもしれない。
(幸い相手は一人、マスターはカウンターの中。晶が走り出した瞬間、僕がよろけたフリをして眼鏡の男に体当たりすれば……!)
そう算段して陽翔は身構えた。けれど次の瞬間、晶は力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。
「ぁ……ぇ?」
晶が自分でも意味が分からない、というような声を漏らす。
見ていた陽翔も意味が分からなかった。
晶があの程度の酒で酔うはずもなく、体調だって万全だった。
なのにまるでいつもの『獲物』たちのように、立ち上がった途端に薬が回った、みたいな様子で――。
(薬を、盛られた――? どうやって? いつもやってる側の晶がそんなヘマをするはず――マスターもグルか!)
それを裏付けるように、眼鏡の男もマスターも、突然蹲った晶に驚きもしない。
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