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「マスター、手間をかけさせたな」
「いえ、九条様のご依頼ですから」
「後のことはウチのもんに任せてくれ。ああ、分かっていると思うが……」
「はい、私は今日、何も見てないし、聞いていません」
「うん。今後ともよろしく頼むよ」
「はい」
九条と呼ばれた眼鏡の男は、荷物のように晶を肩に担ぐ。
何の薬を飲まされたのか分からないが、晶の意識はもうないようだった。
「ま、待てっ……! その子をどこに連れて行く気だよ! その子を離せよ!」
慌てて立ち上がり、ドアの方に歩きかけた眼鏡の男の服を掴む。
「ああ……?」
振り向いて目が合ったその男は、視線だけで人を殺せそうな威圧感を放っていた。
圧倒され、手が震えそうになるのを堪えて、睨み返す。
そんな陽翔を見て、眼鏡の男は面白そうに笑った。
「心配しなくても、お前も行先は一緒だよ」
「何をっ……ぅ、くぅ……!」
急に目の前がぐるぐると回って、気持ち悪くて立っていられなくなった。
意識が遠のく。
手足に力が入らない。
「なんで……僕、も……――」
(ああ、水だ。さっきマスターが持ってきた水に――)
男の服を掴んだまま、陽翔の意識は真っ暗になった。
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