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(新宿のバーで『仕事』をしていて、でも金を奪おうとした『獲物』は先週金を奪った男の知り合いで、オレの正体がバレていて、薬を飲まされて捕まって――)
そこまで思い出して、はっと気付く。
(ハル……!)
ざっと辺りを窺うが、この部屋に陽翔の姿は見当たらない。
この部屋にいるのは晶と眼鏡の男――確か九条と呼ばれていた――だけだ。
もしかしたら捕まったのは晶だけで、陽翔は上手く逃げられたのだろうか。
(いや、オレが捕まって、アイツが一人で逃げるか? そんな小狡い奴ならオレも安心なんだけど――。まさか、捕まって、それで――……)
陽翔がここにいない理由、最悪の状況を想像して、晶は自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。
(落ち着け、まだ何も状況が把握できていない。もしまだ捕まっていないのなら下手なことは言わない方がいい――)
勝手にうるさく鳴り響く心臓の音を無視して、晶は冷静に自分の置かれている状況を確認した。
(両手首には手錠――多分、ベッドか何かに繋がれてる。足は――左足はフリー、右足は……チッ、こっちも繋がれてやがんな……)
目の前では、九条が晶を見下ろして薄笑いを浮かべている。
九条の背後は壁だ。
(反対側は――?)
部屋の様子を窺うために、九条から顔を背けるフリをして反対側に顔を向けた。
(ドアは足元――でも、ああ、クソッ……ここ、ホテルじゃねぇな……!)
ホテルならば、まだ、逃げられる見込みはあった。
何も知らない他人に助けを求めれば、他人はどう見ても『拉致監禁されている哀れな少女』にしか見えない晶をすぐに助けてくれただろう。
だが、顔を背けた側の壁は一面コレクションボードになっていて、そこには所狭しとモデルガンやアーミーナイフが並べられていた。
(高級ホテル並みの個人住宅――となれば他の部屋に仲間がいる可能性もある。……ってアレ、モデルガンだよな? ホンモンじゃねぇよな?)
やたら重厚に黒光りする銃器類に、嫌な予感がちらついて冷や汗が吹き出す。
もしあれが本物の銃器類だったら、そんなものを大量に持っている組織的な存在だったら――。
(オレは想像以上にヤバイものに手を出したのかも――……!)
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