1 イケないお仕事

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「あー、待って待って。危ないから」  少女が男を抱き起こすよりも先に、マスターがそれを止めた。  すぐにバーカウンターから出てきて、少女の代わりに、容易く男を抱え起こして、男の上半身をバーカウンターの足元にもたれかけさせる。  男は顔を真っ赤にして、気持ちよさそうな寝息を立てていた。 「あー、飲み過ぎだな、ガミさん調子に乗ってピッチ上げるから」  呆れたように笑うマスターは、戸惑う少女の視線に気付いてにやっと笑みを返した。 「いーよいーよ。この人のことは上手いことやっとくから。常連さんだしね。危ない目に遭わないうちに早くお家に帰りな」 「あ、でも……」 「ああ、大丈夫大丈夫。お嬢さんの飲み代ならガミさんが払うって。もう変な男に捕まるんじゃないよ」  バッグから財布を取り出そうとした少女に、マスターはウインクをして、さぁ行った行った、と手をひらひらさせる。 「すみません……ありがとうございます」  少女は長い髪をさらりと揺らして頭を下げ、後ろを気にする素振りを見せながら店を出て行った。 (良かった……今回も成功したみたいだ……)  少女が完全に店を出たことを確認すると、陽翔(はると)はオレンジジュースを一気に飲み干した。  腕時計を見て、時間を気にする素振りをしてみせてから、マスターに片手を上げる。 「お勘定お願いします」 「はい、八百円ねー。ありがとうございましたー」  金にならない、そして美少女でもない客に対してのそっけない対応に陽翔(はると)は心の中で苦笑いを浮かべる。 (でもまぁ、世の中こんなもんだよな。(あきら)はそれが許せないみたいだけど……) 「ごちそうさまです」  (あきら)の『仕事』に協力してくれたことに心から感謝しながら、陽翔(はると)は笑顔で店を出た。
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