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「あー、待って待って。危ないから」
少女が男を抱き起こすよりも先に、マスターがそれを止めた。
すぐにバーカウンターから出てきて、少女の代わりに、容易く男を抱え起こして、男の上半身をバーカウンターの足元にもたれかけさせる。
男は顔を真っ赤にして、気持ちよさそうな寝息を立てていた。
「あー、飲み過ぎだな、ガミさん調子に乗ってピッチ上げるから」
呆れたように笑うマスターは、戸惑う少女の視線に気付いてにやっと笑みを返した。
「いーよいーよ。この人のことは上手いことやっとくから。常連さんだしね。危ない目に遭わないうちに早くお家に帰りな」
「あ、でも……」
「ああ、大丈夫大丈夫。お嬢さんの飲み代ならガミさんが払うって。もう変な男に捕まるんじゃないよ」
バッグから財布を取り出そうとした少女に、マスターはウインクをして、さぁ行った行った、と手をひらひらさせる。
「すみません……ありがとうございます」
少女は長い髪をさらりと揺らして頭を下げ、後ろを気にする素振りを見せながら店を出て行った。
(良かった……今回も成功したみたいだ……)
少女が完全に店を出たことを確認すると、陽翔はオレンジジュースを一気に飲み干した。
腕時計を見て、時間を気にする素振りをしてみせてから、マスターに片手を上げる。
「お勘定お願いします」
「はい、八百円ねー。ありがとうございましたー」
金にならない、そして美少女でもない客に対してのそっけない対応に陽翔は心の中で苦笑いを浮かべる。
(でもまぁ、世の中こんなもんだよな。晶はそれが許せないみたいだけど……)
「ごちそうさまです」
晶の『仕事』に協力してくれたことに心から感謝しながら、陽翔は笑顔で店を出た。
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