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「ぷはーっ! 仕事終わりの一杯はたまんねぇな!」
シャワーを浴び、トランクス一丁の姿で、晶はオヤジ臭い台詞を吐いた。
上機嫌で飲み干しているのは缶ビールだ。
ほんの小一時間前までの清楚なお嬢様然とした姿とはとても同一人物とは思えなくて、晶の変わり身の鮮やかさに陽翔は溜息を吐いた。
「晶、いくら風呂上りでもTシャツぐらい着なよ」
「あーん? いいだろ、別に男なんだから。それとも何か、お前までオレを女扱いすんのか?」
晶は酔ってもいないだろうに管を巻く。
容姿を使って『仕事』をしているくせに、容姿のことに触れるのは厳禁なのだ。
「違うって、風邪を引くからだよ」
「それならいい」
「ほら」
『いい』と言ったくせに、陽翔がTシャツを差し出しても晶は無視するようにそっぽを向く。
「ああもう、ほら、着せてあげるからせめて缶を口から離して」
そこまで言うと晶はようやくビールの缶をローテーブルに置いた。
「ん」
「はいはい。ついでに髪も乾かしていい?」
「勝手にすれば」
「うん、そうする」
一応の了承を得て、陽翔は晶にTシャツを着せると、濡れたまま無造作にまとめられた髪をほどいてタオルで拭き始めた。
「仮にも商売道具なんだから、せめてドライヤーで乾かすぐらいはしなよ」
「うるせぇな。別に好き好んで道具にしてる訳じゃねぇよ。切るのもめんどくせぇからそのまま使ってるだけ。つかそんなことより、今日の上りはどうだったんだよ」
されるがままに髪を乾かされながら、晶は二本目の缶ビールに口を付ける。
ドライヤーとブラシを使って慣れた手つきで晶の髪を乾かす陽翔は、何でもない口ぶりで晶の問いに答えた。
「んー、二十万と小銭が少し。最近の中では一番の当たりじゃない?」
「まじか! 大当たりじゃん! 何だよ、もっと喜べよ!」
ヒュー、とご機嫌な口笛を鳴らして、晶は二本目のビールも勢いよく飲み干した。
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