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「やっぱ新宿かぁ。この間の新橋のは大外れだったもんなー! 次、もう一回ぐらい新宿行っとくかなぁ! な?」
振り向いて陽翔に笑いかける晶は、化粧なんてしなくてもそれだけで少女のように愛らしい。
その容姿を生かして、今日のように下衆な男を引っ掛けては睡眠薬で眠らせて財布を掏る『仕事』を繰り返している。
(こんな危ないこと、本当はもう止めて欲しいけど――)
次の『仕事』の算段に応えない陽翔に、晶は明らかにムッとした顔をした。
「どうせまた『止めろ』っつーんだろ? いいぜ、別に。そしたら一人で勝手にやるだけだから。どうせお前なんかいてもいなくても変わんねぇし、つかバーでオレンジジュース一杯しか飲まねぇ客なんかまじ怪しいだけだし」
「それは駄目! 晶一人で行って、危ない目に遭ったらどうするの!」
「どうもこうもねぇよ、一人で何とでも切り抜けるし、切り抜けられなかったらそれまでだ」
「駄目だよ! 駄目! いざとなったら僕が守るから! だから絶対一緒についてっ……むぐぐ……」
ブラシとドライヤーで両手の塞がった陽翔の口を、晶の片手が摘み上げて強引に閉じさせる。
「なーにが『僕が守る』だ! 女じゃねぇんだから守られる必要なんかねぇんだよ! 図体がデカいだけで喧嘩の一つもしたことねぇくせに!」
「むむむむ~……(それはそうだけど……)」
「ああ、分かった分かった。次の『仕事』もお前は連れてく。次もう一回だけ新宿行ったら『仕事場』を変える。そんでいいだろ?」
「む~……(よくはないけど……分かった……)」
表情で会話して、渋々了承したことが伝わると、晶は漸く口を抓む手を放した。
打って変わって、子供のような無邪気な笑みを浮かべる。
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