1 イケないお仕事

8/8
前へ
/141ページ
次へ
「あー美味かったー!」  陽翔(はると)が作ったオムライスを平らげた(あきら)は、満足気に陽翔(はると)が敷いた布団に横になった。  皿を洗う陽翔(はると)後目(しりめ)に、「おやすみー」ととっとと目を閉じてしまう。 「こら、歯ぐらい磨けってば、(あきら)!」  キッチンから声をかけるも、(あきら)は無視を決め込んで陽翔(はると)に背を向けてしまった。 「(あきら)!」  絶対にまだ眠っていないくせに(あきら)は返事をしない。 「ああ、もう……」  皿を洗い、歯も磨き終えた陽翔(はると)がやってきて、(あきら)の顔を覗き込む。  絶対に眠っていない(あきら)は、目を閉じたまま子供の笑みを浮かべていた。 「ほんと仕方ないんだから……。おやすみ、(あきら)」  肩まで布団をかけ直してやって、陽翔(はると)も自分の布団に潜り込んだ。  (あきら)は昔からずっとこんな感じだ。  陽翔(はると)と児童養護施設で出会った八年前からずっと。  女みたいな自分の容姿が嫌いで、自分なんてどうなってもいいって本気で思ってて、だからつい陽翔(はると)は過剰に世話を焼いてしまう。  暗闇の中、(あきら)がそっと起き上る気配がする。  暫く様子を窺って、陽翔(はると)が起きないことを確認すると、(あきら)陽翔(はると)の布団の中に潜り込んできた。 (あ、来た……)  人肌恋しくなるとこっそり布団に潜り込んで来るくせも昔のままだ。  正直、十八の男子がする行動ではないと思うけれど、赤ん坊のころから施設で育った(あきら)には、こんな風に甘えられる相手は他にいないのだろう。 (僕は十歳まで思い切り親に甘えたから……)  だからこんな木偶の坊でも、(あきら)の役に立つのなら嬉しい――。  そんな気持ちで、陽翔(はると)は今日も寝たふりを続けた。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1094人が本棚に入れています
本棚に追加