第十二章 機械が笑う時 二

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 それから幾度も俺は仮死になり、その目覚めも谷津は見続けていた。そこで、村を憎むようになったという。 『光に慣らすためだとかで、真っ暗な部屋に上月がいて、目から落ちる涙が床に転がって、星のように光っていました』  その映像を流し続けていると、次第に仲間が集まってきたらしい。 『でも集まって来たのは、上月の現状を知り利用しようとするものや、輝夜であるので売ろうとする者ばかりでした』  谷津は集まった人に守人様の情報を与え続け、誘拐などの情報を得ていた。そして、犯人を消してしまっていた。 『ゲームで金を稼いでいました。その金で実行犯を追い詰めて、他の×に喰わせていました』   それが犯人達に知られてしまい、今度は谷津が追われ、家族が殺されそうになったという。そこで、家族の記憶を改竄し、こちらの世界に住まわせているらしい。 『……ただ生贄にされたのではないのです。報復で殺すために生贄です』  谷津の家族は、こちらの世界で何も知らずに生きている。でも、谷津は今も逃げていた。事情を聞いても、俺は谷津の手助けができない。 「……谷津、どうして俺を命懸けで助けてくれたの?」  そこで、画面が真っ黒になっていた。 『守人様の笑顔と、光二の笑顔は、宝物でした。上月は幾度目かの仮死の後、無表情のままになったけど、俺が行くと手を振ってくれました』  そこで、谷津は俺の笑顔を消した人間が許せなくなった。 「俺の笑顔なんて、どうでもいいのに……」  でも、谷津はもう一度、俺の笑顔が見たかったのだそうだ。 『市役所……』  そこで、李下に携帯電話を取り上げられ、電源を切られていた。 「上月、もうすぐ大学の時間だよ」  携帯電話で時折会話しながら仕事もしていたが、やはり客には失礼であっただろう。李下に電源を切られて正解だった。 「はい」  でも、連続で来る客の定食を出しておく。 「李下さん、後をお願いします」  時間になってしまったので、部屋に帰ると着替えて荷物を持った。李下が、さりげなく、大慈を俺に持たせている。大慈はまだ眠っているので、そっとポケットに移動した。  大学に行こうと部屋を出ると、李下が来て卵サンドを大量に持たせてくれた。 「多美さんが、卵でサンドイッチを作っていました……それも、大量に」  どうも、卵の仕入れの量に誤りがあったらしい。ダンボールでも何箱もの卵が到着し、多美があれこれ作っていた。
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