第十二章 機械が笑う時 二

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「すいませんでした」 「いや、卵はいいのだけどね……まあ、安くなっていたし」  厚焼き玉子のサンドイッチで、これはこれで結構美味しい。でも、パンにパンチが無いような気がする。 「多美さんが燃えているよ……料理方法の多様さが問われているとかで……」  多美が厨房で燃えていた。でも、弁当を作って貰えるのは嬉しい。 「ありがとうございます」  五十鈴にも分けておこう。  非常階段から二階に降りると、駅に向かって歩き出す。すると、又、警報が鳴っていた。どこかに×がいるのかもしれない。周囲を見たが、通勤通学で混み合っていて、個々を認識する事ができない。  電車に乗ると、大学前の駅に到着する。ホームに降りようとすると、腕を掴まれていた。振り返ると、知らない男が俺の腕を掴んでいた。 「この駅で降りるので、腕を離してください」  しかし、腕を離そうとはしない。俺が無理矢理ホームに降りたので、閉まるドアから腕だけ出ていた。  そのまま腕を振り払おうとしたが、離して貰えず、駅員が寄ってきた。 「すいません。知らない人なのですが、腕を離して貰えなくて……」  そこで、駅員が俺を掴んでいる手の主を見た。 「この子の腕を離して貰えませんか?」  発車時刻が遅れるので、駅員も焦っているようだった。俺を掴んでいる腕を引っ張り、電車の中から出そうとすると、腕はすんなり電車から出た。しかし、駅員が固まり、電車は発車しなかった。 「きゃああああああ!」  電車に乗っている女性の悲鳴に、皆が駅員を見た。駅員は、腕だけを掴んで立っている。その腕は、肩から外れていて、血が滴っていた。 「きゃああああああ!」  あちこちで悲鳴があがり、俺はそれでも自分を掴んで離さない腕を見た。本体はどこにいるのか探してみたが、電車の中に腕のない人物はいない。  では、腕を残したまま本体は消えたということなのか。俺は掴まれたままなので、上着を脱ぐと引き抜いてみた。うまく腕が外れたので、上着は諦めて、そっとその場を去ろうとした。 「救急車?誰か、この腕の持ち主はどこですか?」  騒ぎになり、俺の事は誰も見ていない。そっと改札を抜けると、大学に向かった。  どうも輝夜というのは、時折、存在が認識できなくなるらしい。駅員も、俺の存在を途中から認識できなかった。
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